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* それはとても、晴れた日で *

かきたいときに、そのときかきたいことを無節操に。

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【銀魂二次】馬鹿と煙は何とやら【万事屋よ永遠なれ】【土方・銀時】
やっと何とか妄想に勤しむことが出来るようになったら、今度は妄想が止まらなくなってしまったの巻。
現在公開中、「永遠なれ」の方。
同じ映画2回も観に行ったのは初めてかもしれんw
腐りそうで腐らない・・・(以下略)
その内pixivに銀魂でデビューしようと画策中。











 崩れかけた、過去江戸のシンボルと呼ばれたターミナルのてっぺんに、そいつは居た。
 馬鹿と煙は何とやら、と呟きながら、土方は一つ、溜め息のように紫煙を吐き出す。
 「・・・よぉ」
 ターミナルのてっぺんの縁に腰掛けてガキのように両脚をぶらぶらさせて、真っ赤な夕焼けに沈んでいく江戸を眺め下ろしている黒い背中に、そう声をかけた。
 だがその背中は振り向かない。自分の声など聞こえなかったように、ぶらぶら、ぶらぶら両脚を振って、何だかそのままひょいっと飛び降りてしまいそうな。
 だからと言うわけではないが、土方はそのまま歩を進め、その背中の人物の横に、人一人分間を空けて腰を下ろす。そしてちらりと視線をその人影に向け、
 「なにその刺青。ちょーかっこいーねー」
 棒読みが裸足で逃げ出すほどの、あからさまに無感動な言葉を投げ付けてやる。
 背後からでは夕陽の影になってただの黒い人影にしか見えなかったが、真横から見れば逆に夕陽を浴びたその男の全身のナリがはっきりと見えた。
 着流しの袖を落とした方の腕と、横顔。男の肌が見えているのはその部分だけだか、そこにびっしりと描かれた、不可解な紋様。
 「・・・あー、これ?」
 男が頬を歪めながら口を開く。
 「実はこれさー、刺青じゃなくて吹き出物なんだよねー。ちょっとした病気っていうかー? 多串君、君、お見舞いなら何か持ってきてるよね当然ね」
 銀さんあんみつとチョコパフェ食べたいなー、ついでにいちご牛乳飲みたいなー。そう、横に座る男――銀時は、土方に負けず劣らず無感情に言い放つ。視線はこちらを向くことなく、変わらず目の前の夕焼けを眺めたまま。
 「病気ー? それって糖尿じゃね? じゃあ甘いモンなんかダメじゃね? マヨならあるけどいる? って多串じゃねぇよ!」
 「いやいや多串君、知ってた? マヨも高カロリーなんだよ? 摂り過ぎると肥満まっしぐらよ? うわー真選組鬼の副長がぶくぶくのぶよぶよですってーやだわー」
 「いいんだよ、その分俺ぁ仕事でいつも走り回ってるからカロリー消費もばっちりだしー。どこぞの万年金欠の万事屋さんなんて、仕事もねぇからいっつもごろごろだらだら、そんで甘いモンまでバクバク食ってたら、そりゃあ糖尿にもなるわなー、って多串じゃねぇっつってんだろいい加減にしろよ!!」
 「いや、違うんだよ多串君、銀さんの病気はね、糖尿じゃなくってね、」
 そこで初めて銀時が、顔を向けて土方を見た。紅い瞳が夕陽に焼かれ、常のそれより紅く光り、そしてその眼は柔らかい、笑みの形に弧を描いた。
 ――白詛。しかも、本体。



 「・・・ていうか、よくここが分かったね」
 陽はもうほとんど落ちかけていて、見上げれば星空が見える。もうあの頃のようにこのターミナルは夜になっても煌々とはしないし、天人の船で空を遮られることもない。攘夷志士が、侍が、江戸に住まう人々が、心の中で願っていた遮るもののない空を、今取り戻したところで今度は見上げる人が居ない。
 土方はふぅと何本目か分からない煙草の煙を吐き出しつつ、けっと鼻で笑った。
 「真選組の探索能力舐めんじゃねぇぞ」
 あージミーか、ジミー君かー、そりゃ銀さんも気付かんわー、地味過ぎて。銀時の頬がふっと緩む。
 そうではない。それを土方は知っている。常ならば、この男が気付かない訳がない。それが気付かなかった、気付けなかったのは――それほど、この男に余裕がなかったからだ。
 あんな旦那の顔、初めて見ました。青ざめた顔で自分に報告してきた山崎の話を聞いて、土方も俄かには信じられなかった。あんなに生き意地汚かったこの男が、必死に自分の腹を掻っ捌こうとしていたなどと。
 しかしその時には桂から、白詛と魘魅とそれに関わった“白夜叉”の話を聞いていたから、信じるしかなかった。この男が、本当なら敵であるはずの(友人の桂を狙っていたのだから、例え今自分が攘夷志士ではなくとも、敵であるのは変わらないはずだ)自分たちにすら助けの手を伸ばすこのお節介男が、自分が世界を壊す元凶と知って、何もせぬままただ生き続けるとは思えなかった。
 山崎は言っていた。顔を歪め、半分以上泣きそうな声で。本来なら止めるべきだった、本当なら止めたかった、でもあの旦那が、あの旦那がそうするのなら、もう、それしかないんじゃないかって、そう思ったら・・・止められなかった、と。その判断は間違っていると、土方には言えなかった。
 しかし結局、内に眠る魘魅に自害すら許されず、この男はこうして終わる世界を眺めている。死んだ魚の目どころじゃない、死人と同じような眼をして。
 「・・・みんな、元気でやってんの?」
 その、隠し切れない声の震えに、土方はただ唇を噛み締めるしかない。この男のこんなところ、見たくなかった。この男を憐れなどと、一生思うことはなかったはずなのに。
 「――ああ。何かガキどもは、ありゃ反抗期か? 長ぇこと喧嘩してるみてぇだけど、元気は有り余ってんな。それ以外の奴らも、相も変わらず馬鹿ばっかりだ」
 お妙のことは当然伏せた。言えるわけがない。これ以上この男を苦しめるなど、どこぞのサド王子にだって出来ないだろう。
 その代わりに、伝えるべきことがあった。
 「・・・高杉がな、死んだよ」
 ばっと、今度は身体ごとこちらへ向く。いつもは気怠げな半開きの眼が、目一杯見開かれている。震える唇を見ていられず、土方は視線を外して新しい煙草に火を付けた。
 「――白詛でな。流行り始めてすぐだったみたいだ。・・・桂が、看取ったってさ」
 先の、白詛と魘魅の話を聞いた時だった。既に近藤と源外と共に投獄された後で、自分たちなりに白詛のことを調べ尽くした結果魘魅に辿り着き、それが攘夷戦争時代の話だということで桂に面会に行った。その時に物のついでのように語った。もしかしたら、多分だけれど、自分が塀の中に居る内にもしも銀時が見付かるようなことがあれば伝えて欲しいと、そう思っていたのかもしれない。いや、そうであると思うから、土方は口を開く。
 「急に鬼兵隊の活動が鈍くなったんで、もしやと思って探ってみたら、だと。駆け付けた時には今まさにの状態で――」
 桂の顔を見た高杉は、笑ったと言う。二人はあの戦争を共に生き延びた仲だから、あの魘魅との闘いの時も、直接やり合ってはいないけれどその場に居た二人だから、白詛と魘魅の関係も、それが何故今になって広まったかも、ちょっと調べたらすぐ分かってしまったらしい。
 銀時か、と。高杉は呆れたように笑ったと言う。
 自分の手でこの世界を壊せなかったことは心残りだけれど、結局お前らがやってくれたのならそれでいい。それは銀時やお前が望むものではないのだろうが、世界がそれを選んだのだから諦めろ。俺は満足だ。だから――
 「“後を頼む”、と」
 土方が目を合わせると、銀時はぱっと顔を逸らした。いつの間にか陽が落ちた宵闇の中では、その表情を読み取ることは出来ない。だから、それでも、土方は続ける。
 更地になったなら、今度こそ松陽先生の理想の国を、世界を。あの人はもう戻っては来ないけれど、その思想が受け継がれる限り、あの人は死なない。後はうまくやってくれ。・・・あぁ、俺はロクな死に方しねぇと思ってたのに、
 「“最期を友に見送られるなんて、なんて幸せなんだ”――そう言って、笑って、逝ったそうだ」
 ふぅ、と一息、溜め息とも言えぬ感じで土方は煙を吐き出す。何かもう酒でも飲みてぇな、とぽつりと呟きながら。



 それから暫く、お互い、何も言わなかった。
 銀時はいつの間にか懐からポッキーを取り出し、ぽりぽりと齧っている。ぽりぽりぽりぽり齧って齧って、あっという間に一箱を空にして、ぽいっと箱を投げ捨てた。
 土方はそれを横目に見ながら、密かに、激辛せんべいを用意して来なかったことを後悔していた。このフォロ方十四フォローともあろう者が情けない。知れずちっと舌打ちしてしまう。
 それをきっかけにでもしたのか、銀時はぐっと背筋を伸ばして両腕を上げて伸びをした。言った。
 「税金泥棒さんは、いつまでこんなとこでサボってんのー? 言い触らしちゃうよ、銀さん、病気と一緒に江戸中に触れ回っちゃうよー?」
 そしたらまた、副長さんの株は下がっちゃうよー?と、こちらも見ずに無表情に、ぶっきらぼうがケツまくって逃げ出すほどに抑揚なく言葉を吐き出した。
 もう税金泥棒じゃねぇよ、と喉元まで出かかった言葉を、ぐっと土方は飲み込む。今の自分たちの状態をこの男に言ったら、気付かれたら、この男は自分がこんな状態なのにそれでも胸を痛めるだろう。そしてもしも、万が一、億が一にでも、人知れず助けようなどと思われてしまったら。
 だからその件については何も触れず、すっと立ち上がり、銀時を頭上から見下ろした。
 残念なことに、土方からするとここからが本題だった。哀しみも悔しさもこの男に対する憐憫も、今だけは“元”真選組鬼の副長の皮の下に隠しておく。
 「――てめぇ、これからどうすんだよ」
 静かに殺気を立ち上らせる。利き手は既に獲物の柄を握り締めている。「死ねねぇなら――――」
 ――俺が殺してやろうか?



 見下ろされる男は、一瞬ちらりと視線を向けただけだった。
 土方は、獲物を鞘から抜いた。妖刀村麻紗。これにまつわる万事屋とのあれこれを、今でもきっちり覚えている。あの時あんなに説教されたのに、自分は近藤を護る剣だと豪語したのに、今その近藤は塀の中で、こんな世の中でもお偉方は利権争いに必死で、そして真選組が邪魔な奴らに大事な大将の首根っこを引っ掴まれている。
 この世界はまだ更地にはなっていない。だったらいっそ、この男をこのまま放置して、それこそ高杉の言うように更地にでもしてもらった方がいいんじゃねぇか。そんなことを思う非道な自分も居る。
 だが、それをしてしまったらもう、自分は誰にも合わせる顔がない。それで近藤が戻って来て、真選組が戻ろうとも、もうそこに自分の居るべき場所はない。自分はその前に、士道不覚悟で切腹せねばなるまい。
 万事屋には世話になった。面倒臭いことに巻き込まれたりもしたけれど、同じほど自分たちも巻き込んで、そして・・・・・・助けてもらった。
 同志でもない、仲間でもない、友人でもない。ただの腐れ縁。それでも縁は縁で、受けた恩は返さねばなるまい。
 それがこんな形になるのは不本意だが、それでもこれが、今の土方に出来る精一杯の恩返しだった。
 ぴたりと、首筋にその切っ先を当てる。



 「・・・何か言い残したいことは?」
 「・・・・・・」
 「おい、万事屋。聞いてんのか」
 「・・・・・・」
 「おい、このくるくる天パ。無視すんならこのままたたっ斬るぞ」
 「・・・・・・」
 「おいコラ、万事屋ァ!!」
 ひゅっと、その切っ先を振り上げ、自分の本気度を理解させるためにも、腕か肩か本当に斬ってやろうと振り下ろす。



 「――・・・!!」
 一瞬後、土方の視界は天を向いていた。
 はっとしてすぐに上半身を起こすと、そこには、立ち上がりも振り向きもせず、ただ片手に握った木刀だけを腰に収める“夜叉”が、居た。
 「お~怖い怖い。これだから不良警察はやだね~。瞳孔開き切ってるよ?」
 ついと振り向いて苦笑を漏らすその眼が、紅い。紅い目をすぅっと細めると、夜叉はすぐにまた前を向いた。両脚をぶらぶら、ぶらぶら。
 ヅラから聞いてねぇの?呆れたような、疲れたような声で、吐息を漏らす。ま、あいつも全部を分かってるわけじゃないのかもな、何せやり合って生き残ってるの、俺だけだし。その言葉の端から滲む、空虚。
 何をと、半身を起こしたままの姿で固まっている自分に、夜叉はもう一度振り向いて笑った。・・・その顔はもう夜叉とは呼べず、ぐずぐずのだらだらにふやけきった顔。いつもの、“万事屋”の、顔。
 そうして聞く、魘魅の正体とその寄生方法。だからこそ手に負えず、ここでただひたすら世界の終わりを眺め続けている、その孤独。
 「でもちゃんと、手は打ってあるから」
 悪ぃけど、もうちょっとだけ待ってくれねぇか。星空を見上げながら乞う背中に、何と言えようか。土方はその場に胡坐をかいて、また新しい煙草に火を付けた。
 「何だよ、その手ってのは」
 不意に、銀時の背が丸まる。両手を腕にやり、ぎゅっと握り締める。まるで寒がっているように見えるが、今時分はちょうど梅雨も明け、これから夏を迎えようかというところで、確かに高い所に居るから地上より空気が冷えているとはいえ、それほど寒がるほどではない。実際、土方はちっとも寒くはない。
 おいどうしたと、立ち上がりその肩に手をかけようとした刹那、土方のその手は強い力で弾かれた。
 そして、銀時の肌のあの紋様が、薄紅色に瞬いているのを、見た。
 「・・・ったく、さっき、すげぇ殺気・・・浴びちゃったから、かなー」
 ぎゅうっと己を抑え付けるがごとく丸まりながら、銀時は息を吐く。多串君本当に公務員?良く面接通ったねー。いつかどこかで言われた台詞だが、今はその台詞のどこにも余裕を感じない。
 すぐさま土方は距離を取った。魘魅の正体を聞いてしまった以上、こいつと戦闘になるわけにはいかない。






 ――――俺を殺れんのは、俺だけだ。






 今やあの紅い瞳すら薄紅色に点滅する中、一瞬土方と目を合わせて、銀時は言い切った。
 土方は頷く。それが先ほどの問いの答えだと、意味は全く分からないけれど、直感でそう思った。そしてそれはきっと正しい。
 それと多分――これが万事屋と交わす最期の言葉だとも、思った。直感でそう思った。だけどそれは信じたくない。信じたくはないけれど、いつかのために、持ち帰らなければならない。
 ふっと、視線の先の男は眉を下げた。それは笑顔とも、苦笑とも、懇願とも、見えた。
 「それと、俺が殺るのも、俺だけね」
 それだけ聞けば十分だった。土方は更に距離を取り――そして瓦礫の中に姿をくらませた。
 せめて奪えぬ命なら。決して命は奪わせまいと。






 「山崎」
 ターミナル跡地から出てすぐ、土方は背後に声をかける。声はないが、月明かりに照らされる夜道に影が一つ増えた。
 「このことは、俺とお前しか知らないな」
 無言。しかしそれは答えが否だからではない。土方の背後に並ぶ影の頭の部分が、必死に上下に動かされているのが見える。
 「他言無用だ。今回は近藤さんにも総悟にも、あのガキどもにも桂にも、誰にもだ。墓場まで持ってけ」
 「――はい」
 やっと声を発した。今までに聞いたこともないような、硬い声だった。
 それなりの修羅場を、土方も山崎も経験してきた。敵ではなく元同志であったものを斬らねばならなかった時もたくさんあった。同志とは仲間であり家族である。それを斬り捨てるのは、己の身を斬られるより辛かった。そんな経験をたくさんしてきた。
 それでも。それはどれほど経験を積んでも慣れるということはない。そして今回のこれは、何よりも、相手が悲壮過ぎた。今までの何よりも、誰よりも。
 馬鹿と煙は何とやら。自分のせいで終わる世界を、自分のせいで消える命を、どこまでも見つめ続けるあの馬鹿。
 ――誰でもいいからあの馬鹿を、救ってやってはくれないか。
 足元に転がるポッキーの空き箱を、土方はぐしゃりと踏み付けた。

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