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* それはとても、晴れた日で *

かきたいときに、そのときかきたいことを無節操に。

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【DQⅣ二次(PS版)】山奥の村にて【勇者・ピサロ】
PS版DQⅣの二次。
六章の勇者と元魔王。










 千年に一度の奇跡の花を摘み取った瞬間、目の前が歪んだような気がした。
 今から思えば、それは自分が初めて覚えた“欲”だった。
 気付けば一人、焼け枯れた落ち葉すら砂に変わったこの丘の上。天に捧げた奇跡がぴかりともしないのをただ、見つめて。
 そうして自分は、やはり何者でもなく、全ては竜のマスターの掌の上、踊らされるマリオネットなのだと知った。


 だとしたら、と、銀の髪の男が、視線を落として唾吐くように呟いた。今、お前達と共に居るのも、全てやつの意のままという事か、と。
 力では敵わないから。それならば、その運命の糸を繰って、歪め捻じ切って。
 それがかの竜を神と言わしめす力。唯一無二の、例えこの銀髪の男やその目の前、荒涼とした砂地で唯一緑を匂わす少年が剣を持ってその首を切り落とし、代わりにその雲の上の座に就いても神にはなれない、その力。
 そうかもしれない、そうじゃないかもしれない、そんな事はどうでもいい、あなたの意思には興味がない、自分が言いたいのは、そういう事ではなく。翡翠の双眸が、空を流れる天の川から、月の光を纏うその銀髪、その下に隠れる紅玉へと向いた。
 見つめられた紅は、ゆうるりと上向いて、ほそりと歪む。何者でもなくはないだろう、と。釣り上がった口から零れる音は、闇らしからぬ軽やかな。
 世界の隅々まで置いた者達をことごとく打ち破り、そうしてついには我をも下し、多分明晩にはきゃつも討っているだろう、血なぞ意味なく関係なく、成した事は紛れもなく勇者の所業そのものではないか、と。
 だから、あの日、潰しに来たのは何ら間違いではなかった、と。
 一瞬、翡翠はその瞼の裏へと隠れた。沈黙と闇。銀は夜光に煌いて、緑は宵に塗り潰されて。
 あの時、蘇っていたら一番だった。後はあなたを殺せば終わり。そんな終わりでよかったんだ。
 暫し後、少年の口から漏れた言葉は自身が驚くほど低く。男の笑みは更に深く。


 夜の帳は深くしずかに。誰も知らぬ誰も訪れぬ、そして今は誰もおらぬ山の最奥は閉じる。
 銀は夜光に煌いて染め上げて、緑は宵に塗り潰されて照らされて。
 昼と夜。光と影。天と地。それは隔てるものの名。
 けれどいっそ、似ているのだと。
 二人が気付く、その事すら、雲の上の竜のマスター、その掌で繰り遊ぶ糸の中なのだとしたら。


 誰も知らぬ誰も訪れぬ山の最奥、そして今は最期に訪れた者の手によって生きる事の許されぬ朽ち果てた村の中心。
 夜の帳で深くしずかに閉ざされて。
 非て似なる二人はそっと、眼を閉じた。

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