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* それはとても、晴れた日で *

かきたいときに、そのときかきたいことを無節操に。

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【DQⅦ二次(PS版)】弔い【主人公・キーファ】
DQⅦの二次です。
主→キーファで。
腐向けではないつもり。・・・つもり。
分からない方はスルーでよろです。











 「お前なら、分かってくれるだろ?」
 それまでずっとこちらには目を合わせず、いつもと変わらない笑みを。
 まるであの日々、僕らが生まれ育ったエスタード島、あの頃はたった1つの島しか世界になかったあの日々、何かを夢見てあの壊れた小船を直していた時のような。
 僕らの後ろで、ただただ佇む赤い髪の少女曰く、王子らしからぬ、気品も威厳も責任もあったもんじゃない、噂に違わぬ夢見る放蕩息子、そのままの軽さ。
 その変わらない笑みを浮かべた横顔を、彼がようやっとこちらへ向けた。
 向けて・・・向けられて、瞬間。
 彼の顔からは、そんな笑みは消えていた。
 「なに――言って」
 髪の色と同じ金色。その眼が見れなくて、視線を伏せた。
 言わねばならない。言わねばならない。そうでないと。視線の先、震える自分の指先が見えて、堪らなくて拳を握った。
 「分からないよ。君が何を言ってるのか、僕には分からない」
 僕より目線一つ分高い彼、その金色の眼光が伏せた僕の頭頂部に突き刺さって痛い。こんな時に限って、いつもは手厳しい彼女も、空気の読めない白い狼の子も、何一つ声を出さない。
 ――まるで世界に、僕と彼、2人きりだ。そう、まるであの日々の、あの地下の洞窟のように。
 今は憎しみでしか聴けない、流浪の民達の歌声さえ、あの日の波音の中に消えていく。
 「・・・お前なら、そう言うと思ったよ」
 ぽん、と。軽くつむじに乗せられた、いつの間にか硬くなった掌。
 いつでも最前で剣を握り、いつでも一番にモンスターを切り捨てて、そうしている内にそもそも成長期だった彼は、背も伸びて腕もやんわりと筋肉が覆い始め、手には血豆がたくさん出来て。そうしていつだったか、そんな自分の掌を見て、そっと、嬉しそうに笑っていたっけ。
 「でもさ――もう、決めたんだ」
 それは、はっきりとした、決別の、言葉。
 消えていた憎しみの歌が蘇ってきて、帰りたいあの波音が消えていって、そうして、震える声が、俄かに世界に割って入った。
 「・・・あんた、何言ってるか・・・自分で分かってるの? もう、帰れなくなって、いいわけ?」
 責めるような言葉とは裏腹に、彼女の声は、泣き出しそうに弱々しかった。きっと彼女も本当は、無駄だという事に気付いているのだろう。それでもそれを言葉にしたのは、言いたい事は言わないと気が済まない性格からなのか、それとも。
 「途中で抜けるような事になって、お前らにはほんと、悪いと思ってる」
 僕のつむじに注がれていた視線が、流れる。ようやっと息を吐き出して見上げたその顔、それはもう、“こちら側の人間”では、なかった。
 一瞬、眼が合う。彼はほんの少し、笑って見せた。
 彼は大分、大人になっていた。



 「あそこまで、送っていく」
 腕を取られ、まるで半分、引きずられるように。
 最後に振り返り、彼を奪った彼女を見やれば、彼女は心底幸せそうに、感謝の歌だなんていう最高に空気の読めない歌を人一倍美しく歌い上げていた。ばっかじゃないの、と、ほとんど溜め息と同じような息の音で背後の彼女が呟いて、全くだと僕も言いかけたけど、目の前を歩く彼が苦笑なんて漏らすから、僕は何も言えなくなった。
 「――お前の、その腕の痣」
 彼は、握ったままの僕の腕を少し捲り上げ、物心付いた時から僕の腕に何故かあり、そしていつまでも消えない痣につと触れた。
 「俺は、昔から思ってた。お前のこの腕の痣には、きっと何か意味がある、お前はきっと、何かしらの運命を背負って生まれてきたんだって」
 世界にたった1つしかなかった島。1つの村と1つの城と、そして1つの遺跡。たったそれだけだった世界。そんな中でこのおめでた王子様は、一体何の運命があると思っていたのだろう。
 「それに比べて、俺はただ王子って身分に生まれ付いただけだ。・・・正直、羨ましかったんだ、お前が、俺は。この旅に出始めてもそうだ、こう言っちゃ何だが、俺があの遺跡に興味を持って、俺が城の宝物庫を探らなかったら、探れる立場じゃなかったら、あの遺跡は開かなかったし、石版だって集まらなかったはずなんだ。でも」
 知っている。だから僕は彼に付き合って来ただけだったんだ。僕は別に、あの遺跡にだって興味はなかったし、こんな旅にも興味はなかった。
 ただ、暇だったから。弱っちいからって、漁にも連れてってもらえなかったから。彼と遊ぶのには体力も知力もいる、ちょっと鍛えられる、本当に、それだけだった。
 「でも、多分、俺がどんなに興味を持っていても、どんなに探っても、きっとお前が居なかったら駄目だった、俺じゃ駄目だった、だから」
 目の前に、あの青白い光が見えてくる。あの平和な世界に戻る為の。村から見る遠くの海のように蒼く、あの遺跡の先の入り江のように神秘的な。本来の僕らが生まれた、戻るべき故郷の光。
 「俺は、俺にしか出来ない何かを、ずっと、ずっと探してたんだ」
 立ち止まる。目の前には、僕と彼を隔てる、最期の別れ道。
 「――さよならだ」
 掴まれた腕を離され、彼は僕達の正面に立つ。今までとは違う立ち位置。いつでも僕達に見せていたその背を見せずに。向かい合ったその間に立ちはだかるのは、時間、そして、世界そのもの。
 言いたい事は山とある。お前の帰りを待つ王はどうする、お前が目に入れても構わないほど愛していた可愛い妹君はどうする、何だかんだ言いつつもお前の創る国に期待していた民はどうする、全てを捨てられるほど、お前の生まれて来た立場は易くはない、そしてそれは、この痣を持って生まれた僕と同じように、お前が持って生まれて来た運命ってやつじゃあないのか? 捨てられる家族はどうなる、捨てられる民はどうなる、捨てられる国はどうなる、捨てられるこの先の冒険は、捨てられる・・・僕は。
 声は出なかった。それでも最後まで逸らさなかった眼が、きっと言葉より雄弁に語ってくれたはずだった。
 だから、手を伸ばした。このまま一緒に、今まで通り、このまま――
 「・・・さあ、行け!」






 突き飛ばされた、と気付いたのは、いつものように時を越える眩しさから解放され、ゆっくりと眼を開いた、その後。
 突き飛ばされた、その意味に気付いたのは、目を開けて、いつもの神殿の台座の前に佇む僕らを見た後。
 「なに・・・この袋」
 隣の彼女が、ゆっくりと足元に転がる袋を拾い上げる。その動作の緩慢さ。それは本当に彼女の動作が鈍いのか、知覚する僕の感覚が鈍いのか。
 渡されて、開く。中にはがしゃがしゃと、彼が身に付けていたはずの武器や防具、そして剣の柄に括り付けられていた、紙切れ。
 紙切れを開く。読み上げる。文字の羅列。そこに意味はなく、意思はなく、感情はなく。
 けれど、読み終えると同時、彼女は吐き捨てた。勝手言ってんじゃないわよ、あたしは嫌よ、こんなの。
 ――その声と同時、勝手に身体が動いていた。再び石版に手を付く。彼が閉じ込められた世界の石版に。
 「ちょっ・・・」何かを叫びかけた彼女の声が、時の流れる不思議な音に掻き消えていく。眩しさに眼を閉じると、もう雑音は届かない。
 そして、眼を開ければ。そこは先程彼と別れたばかりの、あの大陸の端っこで。
 すぐさま駆け出す。すぐに、背後から彼女と狼の子の声が追って来た。けれど身体は止まらない、止まれなかった。ただ、あの流浪の民族がテントを張っていたあの場所へと、足は止まらない。



 「・・・あれ、どうして・・・?」
 少し遅れて追い付いて来た彼女が、目の前に広がる光景に息を飲んだ。
 「匂いが・・・しねぇぞ」
 狼の子が、人型になってもどうやら変わらないらしい嗅覚で、先程まで過ごしていた人達の気配を辿って、首を傾げた。
 僕は、彼女達より少しばかり先にこの場所に着いていたせいなのか、・・・それとも何処かで予想していたのか、彼女より現実を把握していたし、狼の子より賢く答えを導き出していた。
 だから――座り込むしか、なかった。彼らが居たはずのテントが、すっかりなくなった草原の真ん中で。
 「ちょっと・・・なんでよ!? おかしいじゃない、さっきまで――」
 彼女が、いつものようにヒステリックに怒鳴り散らしながら、震える手で僕を掴み上げ、泣きそうな眼で僕を見た。
 「時間が過ぎたんだよ。エンゴウとかも、そうだったじゃないか」
 やけに冷静に答える僕自身の声が、何だか遠い。彼女はそれでも納得しきれないように、だって、エンゴウとは違ってほんとにすぐ戻って来たのに、と喚いていたけれど、さすがに僕にそこまで相手してあげられる力はなかった。やがて気付いた彼女も、彼女にしてはやけに優しく僕を掴み上げた手を離す。
 「――もう、あいつに会えないのか」
 それまでずっとだんまりしていた狼の子が、ぽつんとそんな事を言うから。
 言うから。
 「・・・もう、帰ろうよ、ねぇ」
 彼女が、彼が最期に握り締めた場所と同じ場所を、なぞるように握り締めた。












 それから大分、時は過ぎた。
 冒険の日々は終わり、僕は今ではあの人の息子として、・・・そして、かつての仲間以外には誰にも知られていないけれど、かの大海賊の息子として、海に生きる道を送っている。
 そして時々、この遺跡を訪れる。漁で取れた新鮮な魚、それで作った母お手製の小魚の佃煮を手土産に。
 通いなれた道、冒険を終えて知る、風の精霊(あの高飛車なギャル女)が守る土地、その大陸の一つに、彼は没した。
 彼の子孫であり、仲間でもある神の踊り手の彼女が、あの大陸に作ってくれた墓を知っている。けれどそこは、どうしても自分にとっての墓になりえなかった。彼女の優しさを無碍にするようで、とてもとても申し訳ないけれど。
 自分にとって、彼が没したのは、彼を永遠に弔ったのは、この場所なのだ。
 あの日、再び戻ったあの場所、彼らの足跡を失ってしまったあの日。
 あの場所から、またこちらへと戻る事。その本当の意味を、あの日知っていたのは、多分自分だけ。そして、今も。
 あの日、彼は死んだ。僕らがこちらへと戻った、その瞬間に。
 彼があの世界に残った意味があったのか。子孫である彼女や、彼の父や妹の手前誰にも言った事はないけれど、今でもそれを疑問に思う。
 彼や、彼が愛したあの世界の神の踊り手の娘、そしてその一族、彼らが守り通したあの祭壇で蘇ったのは魔王だった。そして真実その魔王を倒し、本人のやる気のなさで彼らの望む形での復活とまではいかなかったけれど、神が現れたのもこの世でだった。
 それが本願だったのではないのか。その手で魔王を倒し、その手で神を復活させる事が。
 けれど彼は今では遠い昔にその礎となり没した1人の守り手でしかなく。共に居れば勇者と言われる所業を成せたにも関わらず。しかもきっと、彼はそれを分かっていたはずなのに。
 腕を捲る。あの日彼に羨ましかったと言われた痣は、気付いたらいつの間にか消えていた。
 だからなのか。
 痣の消えた自分は、もう何者でもない。今ではフィッシュベルの一漁師、多少親父の名で期待されている部分はあるが、漁師は漁師であって、それ以上でも、それ以下でもない。
 それよりも、一生を冒険と共にする事を選んだというのか。自分の選んだ生き方を一生貫く為だったとでもいうのか。
 全ての役目を終えた石版は、もう時空の旅への扉を開く事はない。だから本当にもう2度と、彼の生きた時代へ行く事は出来ない。
 一生を賭けて彼を探し出して、問いに答えてもらう事は、もう2度と、叶わない。
 彼が生きた世界への石版の上に、もう1つ石版を乗せてある。それは、今では立派なおかみさんになってたくさんの子供達に囲まれている彼女と、初めての漁に出た日に見付けた、この世界最期の石版。最期のワンピース。
 “おれたち、ずっと友達だよな!”
 だから僕は、時々此処へ遊びに来るんだ。初めてこの神殿が開いた日の足跡を辿って、あの日の君の背を変わらず追いかけて。
 そうして君を喪った、この墓標まで。

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