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銀魂。真選組副長の日常。
何か最初は、桂(攘夷組)>土方(真選組)だったのが、最近、桂(攘夷組)<土方(真選組)になった模様。
この後は近藤さん話を書こうとしている。うわぁ・・・
何か最初は、桂(攘夷組)>土方(真選組)だったのが、最近、桂(攘夷組)<土方(真選組)になった模様。
この後は近藤さん話を書こうとしている。うわぁ・・・
真選組副長、土方十四郎の朝は早い。
起床時間は6時。しかしそれよりも早くに目覚めることの方が多い。
(・・・!)
殺気を感じていち早く床から抜け出せば。
次の瞬間には先ほどまで自分が寝ていた場所へ空く穴。次いで響く、轟音。
手慣れたもので、既に自分の手には鞘から抜かれた刀。待つのは好みではないから、自分から攻める。部屋に立ち込める煙を一閃、煙の向こうの人影に上段から斬りかかる。
「・・・そぉごくぅぅぅぅぅん?」
斬りかかられた相手、一番隊隊長沖田総悟は、手にしているバズーカでその刀を難なく受けている。
「おはようごぜぇやす、土方さん。そのまま一生寝ててくれてよかったのに」
毎朝のことなので、今ここで大立ち回りはもうしない。ある程度のところで刀を収め、押し入れの中にある障子のストックを取り出して壊されたそれと取り換える。
(そろそろ替え少なくなってきたなー。今日辺りまた山崎に作らせるか)
思うのはそんなことだけ。時計を見やればまだ4時。もう一眠り出来るかと、何処からともなく取り出した新しい畳を先の穴が空いたそれとまた取り換え、床を敷き直し、布団を被る。
総悟はと言えば、縁側に放り出された壊れた障子、穴の空いた畳と布団ををずるずる引きずりながら去っていく。彼が毎日人を小馬鹿にしたアイマスクで日中惰眠を貪る原因のほとんどがこれなのだから救えない。
いっそ一度本当にやられてみたらそれで満足するのだろうか。そう思うのも毎朝のことで、土方はそのまままた静かに眠りに落ちていく。襲撃からここまでほんの十分程度。眠りの途中で厠へ起きるのとそう変わらない出来事として処理されていく。当然今更、他の隊士達が起き出すこともない。
至って平和な、真選組の朝だ。
再び6時に目覚めて、6時半からは朝稽古。副長として後進の指導にあたると同時、この時にもあの手この手で襲いかかって来る総悟を、ある時は適当に、ある時は必死にあしらう。
今までで一番酷かったことと言えば、土方の愛するマヨをストックしてある倉庫(道場脇にある)を爆破されたときだ。燃えるマヨ、飛び散るマヨ、地面に叩き付けられ、泥に塗れるマヨ・・・。この時はさすがにキレた。本気でキレた。そこから先の記憶はなく、気付いたら総悟と二人、お互い痣だらけ傷だらけの状態で近藤の前で正座していた。
これが後に真選組内で伝説として語り継がれる、“鬼のご乱心”事件である。元々鬼の副長として恐れられていたが、この事件をきっかけに更に隊士から“この人だけはキレさせちゃいけない”という恐れを(若干の憐みも)得るようになったのだった。
8時からは朝食。今日は鮭セットにした。マヨを鮭にもご飯にも味噌汁にもふんだんにかける。いつもと変わらず美味い。ここでマヨを1本消化。離れた席で原田と飯を食っている山崎を捕まえ、自室の冷蔵庫へのマヨ補充と障子のストック補充を頼む。マヨはいつものことながら障子は面倒だからか、山崎が若干嫌そうな顔をしたため一発殴っておく。涙目の山崎に原田があんぱんを差し出していた。
身支度を整え、9時から始業。今日は昼から市中見回り、夕方からは会議のため、午前中は自室で書類仕事をすることにする。
各種稟議書、報告書、請求書、領収書、そして始末書。土方のところには真選組から出る全ての書類が回ってくる。書類仕事が苦手な近藤のため、日常的な些末なものは全て土方が最終決裁者となっているからだ。故に――まあ性格もあるのだろうが――どんな些末なものでも、土方は全てを一つ一つじっくりと処理していく。
とは言え土方だって書類仕事は好きじゃない。あっという間に灰皿に吸い殻の山が出来る。始末書の多さにも頭が痛い。そのほとんどが総悟の破壊活動によるものだということにも、その中の数件は総悟が自分の命を狙ったときに起こったものだということにも、溜め息が出る。
10時。山崎が監察の定期報告兼、マヨ補充と障子補充にやって来る。
山崎が押し入れに障子を収めている間に、持って来た報告書にざっと目を通す。相も変わらず攘夷浪士による小さな集まりやテロとも呼べない小さな事件はあるようだが、特段これと言って対策が必要なものは何もない。つまんねぇな、とついついチッと舌打ちが出てしまう。山崎が背後で苦笑を漏らした気配がした。
「いいじゃないですか、至って平和で」
「最近運動不足なんだよ」
毎朝沖田隊長と運動してるじゃないですか、と山崎は言うが、ありゃ運動にしちゃハードすぎだ、と新しい煙草に火を付ける。
山崎は土方の文机の横に膝を付き、山盛りの灰皿を新しい灰皿に替えながら、攘夷浪士とやり合うより身内とやり合う方がハードだなんてどんだけですか、と呆れ口調で笑った。
「・・・ところで、山崎」
へらへら笑いながら退室しようとする山崎を、土方は呼び止める。山崎は笑い顔のまま振り返り、すぐに冷や汗を垂らしながら固まった。どこぞのニートに瞳孔開いてると揶揄られた己の眼光がその姿を捉えているからだろう。
「その、背中に差してるモンはなんだ」
「・・・!」
隊服の上着の中に差し込まれ首元から覗いている細長い“ソレ”は、楕円形を描いてその内側には網目が張られていて。裾からはちょっとだけ握りの部分がはみ出していた。
「やまざきっ! てめっ、ミントンか、またミントンかっ! つぅか気付いてたわ、最初っから気付いてたわっ! てめぇの頭の後ろからばっちり見えてたわっ!」
11時。山崎を追いかけ回してとっ捕まえてケツ蹴り上げてこめかみぐりぐりして多少ストレスが解消されたのか、書類仕事は順調。
一旦区切りを付けて、自分で仕舞いの書類を庶務係へ渡し、近藤の決裁が必要な書類を持って彼の自室へ向かう。
どうせ今日もあの女のところだろうと思いきや、珍しく在室していた近藤と茶飲み話。とは言え話題はもっぱら、女の話。
「お妙さんはさぁ~、ああ見えて、いや見たまんま、本当にいい女なんだよ~。若くしてご両親を亡くして、それでも立派に新八くんを育てようと、ご苦労をされて・・・」
酒も入ってないのにずるずる鼻をすすりながらわめくゴリラ、いや、近藤。茶請けのマヨをすすりながら、土方は遠い武州の日々に思いを馳せる。
若くして両親を亡くし、残された弟を育てていた、女。
病のせいか線が細く、それでもいつも自分たちを見て、何が面白いのか常にくすくす笑っていた、彼女。
春。道場のみんなで花見をした場に彼女も居て、お手製の弁当を振る舞ってくれた。・・・美味かった。特に、自分だけにと振る舞われたマヨネーズ巻は絶品だった。総悟に横取りされてほとんど口に出来なかったそれを、死ぬまでにもう一度食べてみたいと、思っていた。
夏。稽古の後に川で汗を流していたとき、彼女は西瓜を持って現れた。褌姿を見られるのが気恥ずかしかったのを覚えている。男どもが西瓜争奪戦を繰り広げている横で、結局彼女は一切れだけしか口に出来なかったのに、ころころと楽しそうに笑っていた。
秋。芋をたくさん焼いたからおやつにどうぞ、と道場へやって来た。唐辛子をふんだんに塗した彼女お手製の焼き芋を、道場のみんなは辛い辛いと一口で放り出したが、マヨは万物に合う奇跡の調味料だ。マヨなら辛さも中和されて美味い、と頬張る自分に、一人、また一人とマヨを手に芋を食い始め、結局みんなで全て食い切ってしまった。
――彼女も、そのマヨ芋を食べた。美味しい、と笑ってくれた。・・・総悟だけはマヨに迎合せず、一人辛子芋を食って翌日腹を下していた。
冬。彼女の体調が優れぬと聞いて、道場のみんなで見舞いに行った。その時初めて自分は、彼女の病の重さを思い知らされたのかもしれない。いつもにこにこ笑っていた顔は青ざめ、一瞬、息をしていないのではないかという恐怖に襲われた。自分と顔を突き合わせればいつも喧嘩を吹っかけて来ていた総悟も、この時ばかりは自分など眼中にもなく、ただひたすら眠る彼女の手を握り締めて震えていた。
賑やかしかったのか、不意に目覚めた彼女は――やはり、笑った。その眼が自分を見ていることを知って、自分は、目を、逸らした。
結局ただの風邪で、それでも元々の身体の弱さのせいか一週間寝込んでいたが、治ればまたいつも通り、何かにつけては道場へやって来て、そうしていつも自分たちの輪の外から、にこにこ笑ってこちらを見ていた。
――幸せに、なってほしかった。
刀を振り回すしか能のない自分では、彼女が倒れた時に傍に居てやることも出来ないかもしれない。それよりも前に、己が彼女の元に帰れないかもしれない。
知っていた。分かっていた。いつも自分たちを見て笑う彼女の瞳が、僅かな寂しさをはらんでいたことを。そんな彼女を、今一時の感情だけで攫うことなど、自分には出来なかった。
・・・惚れていたから。心底、好いていたから。
かたり、という音に土方がはっと我に返ると、近藤がいつの間にか空いていた湯呑に茶を注ぎ足していてくれていた。
「・・・」
すまねぇ、とかなんとか。何か言おうと口を開くも、少し深く入り込み過ぎていたようで、思うように言葉が出て来ない。そんな土方の様子を笑って見やって、近藤は首を振った。いいよ、トシ。とでも言うように。
そのまま黙って、二人で茶を飲んだ。
―― 一瞬後、爆撃が二人を襲うまでは。
「総悟くん?! ねぇ何してんの、何してくれちゃってんの?!」
この一瞬で、先ほど土方が持参した書類を庇った近藤は、さすが局長と言うべきか腐ってもと言うべきか。一応、自分のところにまで回ってくる書類はそこそこ重要であるという認識はあるらしい。ゴリラなりに。
「いやぁ、お二人揃ってサボりたぁいい度胸だなと思いやしてね」
「いつもサボってんのはてめぇだろうが! つーかてめぇ、午前は市中見回りだったろうが! サボってんのはどっちだゴルァ!」
「うるせー土方死ね土方」
そう言いながら総悟は近藤の部屋にずかずかと上り込み、隅にごろりと転がり例のアイマスクを額からさっさと下ろす。そして刀を抜き斬りかかろうとしている土方に背を向けて。
「何か、アホがアホなこと考えてる気ぃがしたんでさぁ」
土方を後ろから羽交い絞めにして止めていた近藤が、ふっと笑った方が先だった。ぽんぽんと肩を叩かれ、土方も振り上げていた刀を下ろす。
障子と畳なら俺の部屋に替えがあるから、山崎にでも持って来させるといい。そう言い置いて、土方は近藤の部屋を後にした。
昼飯を食べて13時。市中見回りに出かける。
基本、市中見回りは同じ隊の隊員同士で二人一組になり行う。しかし土方は副長であるが故に己の隊というものを持たないから、もっぱら同じ時間に当番の隊の隊長と組むか、庭でミントンに興じる山崎を引きずっていく。だが、今日は何となく、一人で出た。
何となくではないか。土方は一人ひっそりと苦笑う。分かっている。先ほどの思考をまだ引きずってしまっているのだ。
切り替えねばならぬと、煙草をくわえて一息つく。こういうときこそ何か面白いことを期待するのだが、期待とは裏切られるためにあるもの。そもそも、真選組副長として顔の割れている土方の前に、そうそう姿を見せる犯罪者など居ない。つまんねぇな、と溜め息が漏れる。
馴染みの団子屋に休憩がてら立ち寄ると、見知った顔があった。
「あれ、土方さん」
「いいとこに来たアル。奢れよバカヤロー」
万事屋のところのメガネとチャイナ娘。顔を合わせると早々にたかってくる娘に、親父はどんな教育してんだとメガネを睨めば、いやぁははは、と曖昧に笑いつつ自分も追加で団子を頼んでいる。両方ともとんだちゃっかり者だ。
そのバカ親父はどうしたと問えば、今依頼人に会いに行っていると。珍しく仕事しているらしい。こりゃ明日雨でも降るかと呟けば、人間をかけたツッコミメガネが、たまにはやらないと僕らのお給料どころかお小遣いが、とか、今月も家賃が、とか、おおよそ子供に言わせるには忍びない台詞が出て来る。
煙草を吸い切ったところで土方は腰を上げた。ガキどもの分も合わせて勘定を済ますと、メガネは殊勝にすみませんと頭を下げ、チャイナはにかっと歯を見せてありがとうネ、と手を振って来た。
二人に背を向け後ろ手に手を振りながら、バカ親父に文句を言えるモンでもねぇか、と新しい煙草に火を付けながら土方は思う。すまねぇもありがとうも、あの時分の己には言えなかった言葉だと。
17時から幹部定例会議。
幹部と言ってもどいつもこいつも田舎から見知った顔で、しかもここ最近特に事件もないから、議題なんてのは特になく。田舎の向こう隣りのナントカさん家の娘がついに嫁いだとか、アイツんとこについに子供が出来たとか、あー俺もさっさと嫁さん貰いてぇだとか、つぅか彼女ってどうやって作るんだとか、云々。
それに触発された近藤が土方においおい泣きすがって来る。
「トシぃ~、今日な、昼な、お妙さんがなぁ~」
「近藤さん。あのドS女をモノにしてぇんなら、近藤さんはドMにならなきゃなりませんでさぁ」
総悟があの嫌らしい笑みを浮かべながら横から口を挟む。嫌な予感がして止めようとしたが、時既に遅し。
なるほど、ドMか!と納得の笑みで一言、近藤はさっさと全裸になり、総悟から受け取った首輪を己で嵌め、お・妙・さぁ~んと今にも飛び出さんばかり。
「アホかっ! 猥褻物陳列罪で捕まるわっ! いい加減あんた真選組の局長っつぅ自覚持てっ!」
あれ、つぅか警察って俺らじゃね?これって現行犯逮捕じゃね?・・・眩暈がして、どっかり胡坐をかき、煙草を手に溜め息一つ。山崎が同情の眼差しで見て来るもんだから、何となく一発殴っておいた。
18時から夕食。ハンバーグ定食にする。マヨは世界を救うのではないかと思うほど、どんな飯にも合う。満足して箸を置いた。
湯浴みを済ませて20時に自室に戻る。
明日は午前中から松平のとっつぁんと近藤と一緒に幕府へ赴かなければならない。であれば追加で出て来ている書類を少しでも片付けておくか、とも思ったがどうにも気乗りがせず、土方はぶらりと夜の街に足を向けた。
馴染みの呑み屋の暖簾をくぐると、これまた、嫌な顔見知りと鉢合わせてしまう。
お互いちらりと一瞬だけ視線を合わせ、何も言わずに土方はその男の座るカウンターに、一つ席を空けて腰を下ろす。
冷酒(ひや)を、と店の大将に頼み、返事と一緒に突き出しとおしぼりが土方の目の前に置かれた瞬間、隣の銀髪の男――万事屋が口を開いた。
「今日、あいつらがゴチになったみたいで」
「どっかの甲斐性なしのおかげで金がねぇって言うもんでな」
突き出しの切り干し大根の煮物をつつきながら、でもその甲斐性なしはこんなところで一杯たぁいいご身分だ、と土方は皮肉気に笑ってやる。
うっせぇちょっと実入りがあったんだよ、と万事屋はぶつぶつ言いながら、ビールの入ったコップをぐいっと一息で呷った。
「ガキどもがね、言ってたよ。今日のマヨラーは何かちょっと変だった、ってさ」
意外な言葉にあぁ?と土方が横目で見やれば。万事屋はにやにや笑いながら、女の勘もさることながら、ガキの直感ってのも怖いねぇ、と手酌で己のコップにビールを注ぎ足している。
「一人でぶらついてるのも珍しいし、団子食いながらぼんやりしてたってさ。神楽がてめぇの分半分以上食ってたのに何も突っ込まれなかったって」
あぁ、と昼間のことを思い出しながら、別に何でもねぇよ、と土方はやって来た冷酒に口を付ける。チャイナ娘が人の皿から串を奪ってたのは気付いていたが、別に元々甘いモンが好きなわけでもない、ちょっと茶が飲みたくて立ち寄っただけのこと、いちいち突っ込むのも面倒だっただけだ、と。
へぇ、そう、と。万事屋はそれ以上何も言わず、己の目の前の品をつつき出す。
ぼんやりしていただろうか。土方は昼間のことをもう一度思い返す。確かにちょっと、昔のことを思い出していた。ちょっと思考に疲れて立ち寄った団子屋にガキどもが居た。適当に世間話に相槌をうっていたつもりだったが、余りその存在を意識はしていなかったように思う。
ヤキが回るってのはこういうことか、と土方はほんの僅か口元を歪ませる。振り返るつもりも、振り返る権利も自分にあるとは思わない。“アホがアホなこと考えてる”と昼間総悟にも言われた。“誰が死のうが振り返るつもりもない”と、別件ではあったがこいつらに言ったこともあった。
やっぱり最近少し運動不足だと、土方は冷酒を呷った。
「・・・ま、いーんじゃないの、たまには」
横からまた万事屋の声がした。見やれば、立てかけてあった木刀を腰に差し、立ち上がったところだった。
「“鬼”だってたまには休まないと、壊れちゃうからね」
てめぇが言うかそれを、と毒づけば、だから銀さん今溜まった有給消化してるじゃん、とひらり後ろ手に手を振りながら店を出ていく。俺の分も勘定よろしくね、と言いながら。
「っざけんなてめぇ! 何で俺がお前の分まで勘定しなきゃなんねぇんだよ!」
「えーいいじゃーん。今日あいつらにはゴチってやったんでしょー? 俺だけゴチられてないんだけどー」
「てめぇはガキじゃねぇだろうが! つぅかあいつらに奢ることになったのもそもそもてめぇの甲斐性がねぇからだろ! 寧ろ俺に奢れ!」
「うるせーコノヤロー。てめぇ、トッシーのときのギャラ払ってねぇの忘れたのかバカヤロー」
「ウチ宛に請求書寄越せばすぐにでも払ってやるわ! 人を踏み倒しみたいに言ってんじゃねぇ!」
一括で貰うより一生たかったほうがお得じゃん。万事屋はにやりと笑って暖簾をくぐって逃げて行った。てめぇどこのチンピラだ!脅迫罪でしょっ引くぞ!叫んだ土方の声が届いたのか届かなかったのか。店の大将が笑ったもんだから、土方は諦めて残った冷酒を一息で空け、追加を頼む。
どうします、ツケにしときますかい、と大将が暖簾の向こうを見ながら聞いて来たが、土方はいや、と首を振る。野郎の分も一緒でいいよ、と。
世話になったのは本当だしな。ぽつりと呟いたその声に、大将はもう一度笑ったようだった。
程よく酔って22時。屯所へ帰る道を辿る。
良く晴れた夜だった。満月が煌々と土方の行く道を照らし出す。
だが、土方の足は月明かり差す表通りから光の届かない路地裏へ向かう。数歩進んだところで、背後から声がかかった。
「――真選組副長、土方十四郎殿とお見受けする」
振り返ればそこには数人の浪士の影。前方の路地の抜け先にも同様に人影が。勿論全員、とっくに刀を抜いている。土方の口角が上がった。
やっぱりこうでないと面白くねぇ。土方の獲物が鞘から抜け切った瞬間、人影が一斉に襲いかかって来た。
手続きをして、もう一度湯浴みをして自室に戻ったのが23時。
大したことのない小物集団だったけれど、少しだけすっきりした。風呂上がりの茶が美味い。縁側で月を見上げながら、土方はほっと一息をつく。
これでいい、と。誰に言うでもなくそう思う。
田舎の道場の馬鹿どもと、一生刀を振り回して遊ぶ。この命懸けるのはたった一人、そんな自分たちの遊び場を作ってくれた大将だけ。
だから。
「てめぇにやるタマぁねぇんだよ、総悟!」
縁側の下から突き出された刀を避けざま、自分も傍らに置いていた刀を抜いて縁側の下へ突き刺す。下から飛び出してきた総悟がぶっ放すバズーカを避けて、斬りかかる。総悟もバズーカを投げ捨てて、己の獲物でそれを受ける。
月明かりの下で、真剣同士の斬り合い。そんな遊びが、楽しくて楽しくて仕方がない。知らず、土方の口元は笑みを描き、見やれば総悟も似たような顔をしていて。
気付けば縁側に隊士たちが並び、酒を片手に観戦モード。近藤はがははと笑って、怪我だけはすんなよと一応の大将らしさを見せる。
これでいい。間合いを取った合間に、煙草に火を付け煙を吸い込む。吐き出した煙の先で揺れる月に、歯を剥き出して笑う。次の一瞬にはまた刀を打ち合って。
こうして、至って平和な真選組の夜は更けていく。
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