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* それはとても、晴れた日で *

かきたいときに、そのときかきたいことを無節操に。

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【BR二次】世界の終わりに【川田】
BR二次。川田さん。





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 はじめ、何気なくその手をとった。
 少しばかりの時を経て、その手に意味を見い出した。
 この手を離さずにいれば、もうそれで、世界は変わることはないと本気で思っていた。
 その手を離すつもりも、離れることも、ないと本気で思っていた。
 世界は変わらないと、本気で、思っていた。










 世界の終わりに










 中学に上がって、なんとなしにつるみ始めた仲間達。特に理由はない。あるもんでもないだろう。
 つるみ始めてお互いの好みを知り、そこに共通点を見い出して共鳴して、気付けばいつもそこに居た。彼らだってきっと同じだ。だからそこに決まった輪ができる。
 その輪の中に、彼女は居た。
 そこから後は、ありきたりに当然に、偶然のように必然に、ほんの些細なイベントを仲間と共に仲間として重ね、気付けばお互いの手をとっていた。
 きっかけをさらって思い出すほど繊細ではなかったし、それを大事にするような少女趣味も持ち合わせてはいない。自分はどこにでもいるありきたりな少年だったし、彼女もそういう性質だったのか、はたまたそんな自分を見抜いていたのか、その話を持ち出すことはなかった。
 だから覚えていない。それほどに、その出来事は小さな小さなきっかけひとつで起こったのだろう。
 そんな自分を恨んだのは、もっともっと時が流れてからだった。





 「明日さ、」
 屋上でいつもの面子といつものように弁当を食べながら、彼女はいつものようにあっけらかんと話しかけてきた。
 「明日、2人でちょっと抜け出さない? 内緒で」
 途端、両脇から同じタイミングで小突かれる。当然、口に含んでいた白飯を思いっきりむせて少し吹き出した。
 「やだ、汚いなぁ」
 わたしのに混ざっちゃってるよ、と顔を顰めながら弁当箱の中身をつつく彼女に、ぶすっとして返答する。
 「おまえな・・・」
 ん?と彼女は上目遣いでこちらを見やりながら、飛ばした白飯の粒を探し出し、それをそのまま口に入れる。どうせ食べるんならわざわざより分けなくてもいいじゃないか、と思うが、とりあえず今口にすべきは別のことだろう。
 「全然内緒になってねーじゃねえか」
 周囲の仲間達がにやにやと2人の会話を聞いている。公然のこととはいえ、余り居心地のいいものではない。
 そういやそうだね、と彼女はまたも悪気なく笑った。そして続ける、ま、いいじゃん、と。
 わざとらしいほど不機嫌な顔を作り、残った飯をかっこんで礼儀程度に「ごちそうさん」と言ってそのまま席を立った背に、「お粗末様」と彼女の変わらない声がかけられた。
 母を亡くした男所帯の我が家のために、弁当はいつも彼女の手作りだった。





 特別部活にも入っていなかった自分達は、基本的に授業の終わりと同時に下校する。時々教室に残って話すこともあったが、今日は明日の準備もあるし、と、どこにも寄り道せずに帰路についていた。
 皆帰る方向自体は一緒だったが、勿論ずっと一緒なわけもない。1人、また1人と輪から離れ、最後にはいつも2人になる。それがきっかけといえばそうだったのかもな、と、2人になった途端に繋がれた手を感じながら思う。
 「章吾はさ、」
 海沿いの線路脇を歩きながら2人、彼女の視線は波間に浮かぶ未だ眩しい太陽。夏も近付いて、陽が落ちるのが大分遅くなってきていた。
 「基本、恥ずかしがり屋だよね」
 そう言って、彼女は繋がれた手を大きく振って笑う。しっかりと相手の手を握り締めているのは彼女のほう。されるがままで、けれど握り返したりしない自分の指先。
 「もう暑いじゃねえか。手に汗かいて気持ち悪い」
 向こうから近所の小母さんが歩いてくるのを目に止め、なんとなしに繋がれた手を振り解いてしまう。彼女は小さく唇を尖らせて離れた手を追おうとするが、一足早くその手は学生ズボンのポケットに入れてしまう。
 いいタイミングで前から来ていた小母さんとすれ違い、2人揃って頭を下げた。今日も暑くなったわね、あんまり日中暑いもんだから、買い物に出るのも今の今まで待ってたんだけど、と、ご近所で有名になるほどのお喋りに二、三言付き合い、最後にまた頭を下げて歩き出してから、そのこともそうだけど、と彼女はまた口を尖らせて話を続けた。
 「お昼休みのも。章吾、まだ怒ってるでしょう」
 話を続けながら、掌を奪う攻防は続いている。手首を掴んでポケットから引っ張り出そうとしても頑なに動かない腕を見て、彼女は今度は腕を組みにかかった。それはそれで暑くてかなわんと、今度は手を上に上げ、首の後ろで両手を組む。悔しそうにねめつけるその目を無視して、彼女の視界の外でちょっとだけ頬が緩んだ。
 素直じゃない、背筋を走るむず痒さに自分で思う。けれどまた、それも普通の反応だと、その時は思っていた。
 彼女は少しの間、恨めしそうに自分を見上げていたようだったが、やがてその視線が逸れたのを感じた。
 そして、2人になった時と同様、彼女の視線は線路向こうの海へと移る。
 それから別れるまで、2人は一言も言葉を発さなかった。










 いつもの屋上で、弁当を食い終わると彼女はいつも、カセットウォークマンでカセットを回しながら、屋上の柵に腕を乗せて空を見ていた。(余談だが、彼女だって当然スプリングスティーンくらいは知っていた。そういう輪だったのだ、自分達は)
 朝、いつもの待ち合わせ場所にいつも通り遅れて着くと、彼女は電柱を背に、昨夜の雨で足元に出来ていた水溜りの中を眺めていた。
 いつかの夏の夜に、仲間と海辺で花火をした時、彼女はねずみ花火を興味津々追いかけ回していた。
 秋になって、今度は山に登ったら、彼女は頭上の木々ばかりに気をとられて何度も転び、帰る時には全身痣だらけになっていた。
 冬に仲間の1人の家に集まってだらだらしていたら、彼女は寒い寒いとこたつから1歩も出ずに、そいつの家の飼い猫をただひたすらに撫で回していた。
 春にみんなでちょっと遠出をして花見と洒落込んでみたら、思いの外酒に弱かった彼女は、すぐに自分の膝の上で眠りこけてしまった。・・・あの時も、散々からかわれて恥ずかしかった。しかも目が覚めても、彼女は気持ち悪いと言い張って膝の上から動かず、ずっと自分の膝小僧ばかり見つめていた。
 そしてまた夏が巡る前に、彼女は雑木林が立ち並ぶ小さな茂みの隣り、ぽかんと目と口を開けたまま、血を垂れ流して絶命していた。
 慶子。
 お前はいつも、何を見ていた。
 お前はいつも、何を考えていたんだ。
 この島は暑かった。慶子を探し回って休むことすら考えてなかったから、立ち止まった瞬間に汗がどっと溢れてきた。
 昨日、いつもと変わりのない帰り道、その手を振り払った自分の手を見つめる。昨日より汗をかいて、そしてそれは泥まみれで、血まみれで、昨日よりも気持ち悪い手だった。
 素直じゃなかった。でも、それが普通だと、その時はそう思っていたんだ。
 汗がぼたぼた落ちた。目に染みてぎゅっと瞑った。汗がぼたぼた落ちた。
 昨日よりも数倍気持ち悪い手で、もう既に固まりかけている慶子の手を握った。いつも慶子がそうしていたようにしっかりと握りこみ、握り返さない相手の手に、なんとなく、いつもの慶子の気持ちが知れた気がした。










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切な系100のお題」023.世界の終わりに





自分の中に溜まる膿は、こうして吐き出すとやっぱり楽になる。
すきな人になるたけ軽い言葉で送るSOSだったり。
ただあてもなくメモ帳に書き散らす羅列だったり。
それを纏めると、いつの間にかこうなる。


あなたはわたしの何を見ていたのだろう。わたしの何を見て何を感じて、あの時ああ言ったのだろう。
自分ばかり見ていて、他を見ている余裕がなかった。

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