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* それはとても、晴れた日で *

かきたいときに、そのときかきたいことを無節操に。

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【ナマモノ二次】エアポケット【KW】
地味スーツとピンク鳩胸ベスト。
ナマモノ注意。
地味スーツの厨二病。
腐臭は限りなく零に近い・・・・・・と、思う。
バトロワってた頃の七ノブと似たような感じ。







*



 あ、死のうかな。
 夜、1人きりの部屋、使い古した炬燵の中で、なんとなく、そう思った。
 そうして思うのは、人間、中途半端に死にたい死にたい思ってる時は死ねなくて、なんか、こんな気分の時にあっさり死ねるもんなんだな、と。



 いや、けど、まぁ。
 とりあえずはたりともう1度考えてみる。
 えらく尖がって、自分が死んだ時、生きてた証は少ないほうがいいなんて、そんな阿呆みたいなちょっと前の自分のおかげで、今も部屋にある物は少ない。
 まぁ、三十路の独身男の部屋だ、後からAVとか出て来ても、それはご愛嬌。
 つか、ここで部屋の整理とか始めると、逆に馬鹿馬鹿しくなるような気もする。



 俺が居なくなって、本気で困るやつも居ないだろ。
 まぁ、事務所には多少迷惑はかけるかな。
 けど、いつ使えなくなるか分かんないもんが、予定より早く壊れただけの話。
 親とかも、なぁ。
 所詮1度は勘当された身で、ちょっとTVで認められたからって手の平返されても。
 めでたいことに現在独り身だし。
 友達だって、まぁ、哀しんではくれるだろうけど、人の記憶なんて時間に優しく出来てるもんだし。
 今俺らを好きだと言ってくれてる人たち然り。
 その内また他の芸人だったり何だったりに目移りして、俺のことなんて忘れるさ。



 じゃあまぁ、いっか。
 よっこらせ、と腰を上げ、引越しのときに余ったビニール紐を手に取る。
 こんなことで余り人を困らせたくないと思ったら、それを使う場所は1箇所に限られた。
 ユニットバスの扉を開けて、トイレタンクの上方の壁に付けられてる、ほらあれ、タオルとかかけておける、なんつーの、ちょっとした棒を握る。
 これにこの紐引っ掛けて、便器に座って吊れば、垂れ流しになるらしいもんは正しく排泄されるだろ。
 けどこれ、強度はどんなもんなんだろうな。
 ぼけっとそんなことを考えながら、握った棒に少し体重をかけてみたりしてたら、突然ドアホンが鳴った。


*



 「・・・なに」
 「なに、じゃないでしょーよ。あなたがネタ作りしたいって言ってたんじゃない」
 ドアを開けたらそこには我が相方さん。相変わらずきっもい顔で、なーんも考えてなさそうな顔で俺を見下ろしてる。
 とりあえず入れなさいよ、と、まだぼけっとしたままの俺の横をきもい相方はするっと通り抜けて、そこら辺に荷物を放り出した後、先に風呂貸して、と、これまた俺の許可なんて知ったこっちゃない風に、勝手にユニットバスに入ってしまった。
 そこまできて、やっと俺はのろのろと元居た炬燵に戻る。
 ネタ作り、そういやそんなことも言ったような気もする。炬燵の天板に顎を乗せて溜め息1つ。
 当然のことながら、今の俺にはもうそんな気はないし、作れと言われたって作れるとも思わない。



 ・・・さて、どうするか。
 浴室からは勢いのいいシャワーの音。あいつは、人ん家だととことん遠慮しない。
 あいつが居ない今やっちまうかとも思ったけど、そうすると第一発見者はあいつになる。
 なんかそれはなぁ・・・と思う。
 出来れば腐らない程度に放置してくれて、ありきたりに近所の人か通報を受けた警察、せめてマネージャーまでが許容範囲だ。
 そもそも、使おうと思ってた紐はまだトイレのあの棒に引っ掛けたまま。
 あいつが入ってるのに、わざわざ取りに行くのもねぇ。
 つか、あいつ、気付いたかな?気付いてないだろうなー、アホだから。
 仕方ないから、撮り溜めてた自分達の出演した番組を見ていたら、アホがガチャッと出てきた。



 「若さん、あんた、今度はどういうつもりよ」
 開口一番、紐を突き付けられたのには正直びっくりした。
 あんまりにもびっくりしちゃったもんだから、例えば、「洗濯物が溜まっちゃって干すとこないから、風呂場にも干そうかと思って」とか、とにかく何かしらの誤魔化しが言えたはずだったのに、普通に答えてしまった。
 「いや・・・死のうかなって、思って」
 「なんで」
 「・・・・・・なんとな、く?」
 我が相方は、自他共に認めるお笑いオンチのため、現場では全く空気が読めないが、何故かこんな時だけは鼻が利く。
 だって俺は、その紐をただぶら下げてただけで、首の形に結んだりとか、まだ全然してなかったのに。
 そして、そんな相方としてはぽんこつな男は、俺の返事を聞いていたのかいないのか、無言でどっかりと炬燵に足を突っ込んできた。



 「・・・もう、醒めたよ」
 沈黙だけが続いて、TVの向こうでは弄られて笑ってる自分達が居て。
 なんとなく居心地が悪くて(俺の部屋なのに!)、自分から声をかけてしまう。
 それに、醒めたってのは事実だし。
 こいつが来ちゃった瞬間に。
 見付かってしまった瞬間に。
 ふっとした衝動だったから、こうやって間を置いちゃうと、なんか、だめだよなぁ。
 「・・・寝ますか」
 いきなりやつは1つ欠伸して、さっさと炬燵から抜け出して勝手に俺の布団に潜り込んでしまった。
 えー、ちょっとちょっと春日さん、ウチ布団1組しかないのご存知でしょう?つか、ネタ作りは?てか、泊まるの?
 「どうせあんた今日はネタ作る気ないでしょう、それに明日、ここから出たほうが現場近いですしね」
 じゃあ引っ越せばいいじゃないですか、春日さんも。一軒家どうこうの件なんて、後付け設定なんですし。
 「うるっせぇなごちゃごちゃごちゃごちゃ。いいからあんたも早く来なさいよ」
 あぁ?てめぇこっちが下手に出てりゃ、なんだよその言い方、やんのか、あぁ?
 「すみません申し訳ない、あれだけはやめてください!」
 あれってなんだよ!俺がおめぇに酷いことしてるみたいじゃねぇか!
 「――春日の前から、居なくなるのだけはやめてください」



 ぽんこつな相方は、勝手に俺の布団に潜り込んで上掛けを肩まで引き上げて、丸まった背中を向けていて。
 ・・・おまえ、まじ、猫背直せよ。
 追って入った布団はじんわり温かくて、合わせた背中からもゆっくり温くなってきて、俺はまた、飛べる気がした。






************
人が自殺を選ぶときって、ほんとのほんとにどうしようもなくなって追い詰められたときか、
もしくは、ほんとに、ふっとした衝動というか、ちょっとした隙間にすとんと落ちちゃうような、そんなときかな、と。
いや、実際死んだことないから良く分からないんですけども。

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