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* それはとても、晴れた日で *

かきたいときに、そのときかきたいことを無節操に。

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【銀魂二次】それは誰が見た、(オマケ)【沖田】
銀魂/土ミツ/長編/のオマケ。沖田さん。
何かもう巡り巡って最近沖田と土方の関係性に滾ってツライ。






 強い雨が降り続いた日、その雨が止んだのか降り止む前だったのか、良く分からない時に沖田総悟の姉、ミツバは逝った。
 そんな彼女の葬儀の日は、雨は降ってこそはいなかったものの、今にも降り出しそうな暗い曇天の空だった。
 喪主は当然総悟。施主は近藤が引き受けた。局長である近藤が施主で、隊士から何だかんだと可愛がられていた総悟の姉の葬儀とあって、それは自然隊葬と同様の体を成した。
 真選組とは、一つの家族の形だった。その家族の家族なら、それは家族と変わりないのだ。



 そんな場だったから、真選組の副長である土方十四郎も当然のように出席していた。当たり前のように最前列、総悟、近藤、松平と並んでその隣に座り(総悟以外に親類縁者は居なかったのだから仕方がなかった)、当たり前のように焼香を上げた。献花もした。
 その姿を、総悟は一挙手一投足、瞬き一つ見逃さず見つめていたが、土方は土方のままだった。“真選組副長”土方十四郎のままだった。
 儚く微笑う姉の遺影を見上げても、睫毛一本微動だにしない。棺に花を納める時、それが今生最期に目に映す姉の姿だというのに、引き結ばれた口端は僅かにも歪みはしなかったし、普段は縦皺ばかり刻む眉間もひくりともしなかった。
 結局総悟は葬儀の間中、目の前の遺影や白く美しく固まってしまった姉そのものよりも、ずっと土方のことばかり見ていたような気もする。



 先のやり合いで間抜けにも片脚を撃ち抜かれた土方はさすがにまだ松葉杖を手放せてはおらず、棺を車に運ぶ中には入らずにひょこひょこと後ろから着いて来て、そして屯所の前で他の隊士連中と共に見送りに立っている。近藤が何かを言い募り腕を引いているが、首を振って頑として動こうとしない。その口は、「あんたも総悟も居ないのに俺が空けるわけにはいかない」だの「後のこともある」だの、そんな風に動いているようだった。
 遺影を抱えたまま、総悟はぼんやりと二人の遣り取りを見つめていた。もう行きやしょう。そう近藤に声をかけたいのだが、その声をかけて近藤がこちらへ来てしまったら、後は車を出して姉を焼くだけだと思うと、何となくその声が出なかった。
 不意に、今の今まで近藤と言い合いをしていた土方と目が合った。その目が細まる。いつもは弧しか描かない柳眉が下がり、先ほどまでお面のように動かなかった頬の筋肉が揺れ、唇がふるりと震える。
 総悟のこと、頼むな。
 薄い唇が描いた言葉を見て、総悟は瞑目した。
 この人はいつもそうなのだ。いつからかはもう忘れたが、いつの間にかその面に常に“真選組副長”の皮を張り付かせて。大人になったふりをして、冷静なふりをして。それでもいつでも、近藤と自分にだけは、いつでもその皮を剥いでみせる。
 だから駄目なのだ。だから気に食わないのだ。どうしてその情を、もっと器用に使いこなせないのだ。
 「……山崎ィ」
 総悟の横で、総悟や近藤の代わりにこの後の手筈を確認している山崎を呼ぶ。山崎が目線だけではいと返事をし、諦めたように戻って来た近藤を見て、くるりと背を向けて呟いた。
 「今日一日、誰もあの人の部屋に近付けるな」
 ぽんと頭に大きな手の感触。次いでわしゃわしゃと髪を掻き回される。昔から変わらない、強くて温かい、近藤の手。
 「トシは昔っから、強情で困るな」
 「いいんでさァ。あのヤローが居たら、ちゃんとお別れが出来やせん」
 ――――俺も、あの人も。






 幸せだったと、最期に姉はそう言った。
 その言葉を、生涯土方に教えてやることはないだろうと総悟は思う。
 あの日病院の屋上で見た、土方の青白い寝顔を思い出す。
 手当もそこそこに抜け出して来たのだろう、真新しい包帯には血が滲んでいて、失血で気を失っていたのか、それとも邪魔臭い前髪で隠し切れなかった頬に伝う雫、それを流した衝動が久し振り過ぎて疲れたのか。
 座り込んで脚を投げ出して目を閉じる土方の、それでもその顔は穏やかに安らいでいた。さわりと、その髪が夜風に揺れるさまは、まるで誰かの優しい手に撫でられているようにも見えて。
 隣に同じように座り込んだら、総悟にもその風が届いた。つい先ほど別れて来たばかりの冷たい手が、まだ温度を持っていた時のような柔らかい温もりを孕んだ空気。
 誘われるように目を閉じてみれば、夢を見たような気がした。
 愛する二人が、穏やかに幸せに、手を取り合って微笑いあう夢。
 きっと姉は奴にも伝えてやったのだ。臆病で不器用でヘタレでそのくせ情深いろくでなしに、幸せだったと、心からの想いを。
 伝えたことを重ねる必要などない。もしも伝わっていなかったら、それこそ土方はクソヤローだ。



 ――――さよなら、姉上。良い夢を。



 あの幸せな夢の続きに眠って欲しいと、総悟は祈りを込めて目を伏せた。

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