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* それはとても、晴れた日で *

かきたいときに、そのときかきたいことを無節操に。

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【銀魂二次】間違い探し【沖土】【神沖土】
銀魂。神楽→沖土のような、神楽+沖田→土方のような。
ほんのり腐向け。n番煎じの史実死ネタもほんのりと。
誰が相手でも土方さんは右側にしか見えない。それは多分自分から矢印を出す人じゃないからだと(わたしが)思う。








 ――お前たちは歪ネ。



 雨上がりの河原で久々に戦り合った後、まるで恋人のような距離で並んで寝転んで見上げた快晴の青、その青を呑み込む瞳を持った桃色髪の娘がそう吐き出した。



 ――何で人を斬るアルか。何で人を殺すアルか。
 ――なのに何で、



 娘は上半身を起こして腰を捻ってこちらを見下ろした。
 紫色の番傘をくるくる回す手とは反対側の手が、俺の頭の下に組まれた腕の、尖った肘に触れる。
 本当は手に触れたかったのだろう。けれど残念、俺の掌は頭の下、後頭部を支えて視界の青を護るのに精一杯だ。



 ――お前もあいつも、優しい手をしてるアルか。



 ついに視界は陰に隠れ、一面の青は一点の青へと変わってしまった。
 仕方なしに頭の下から手を抜き出し、覆い被さる桃色を撫でてやれば、娘は目を細めて気持ち良さそうな顔をした。
 その姿はまるで猫のようで、いやしかしこいつは兎だったと思い直した時、土手の上から俺を呼ぶ声がする。
 娘は寂しいような嬉しいような複雑な顔をして身を起こし、土手を下りてくる男の隣に駆け寄る。
 俺を呼んだ男は娘に柔らかい笑みを向け、何の躊躇いもなくその髪に触れて、撫ぜた。
 娘はやはり喉でも鳴らし出しそうに気持ち良さそうな顔をするから、兎と猫は親戚なのかと思いながら、俺も上半身を起こしてやって来る男を見上げた。



 ――またお前は。今日は夜仕事があるんだから、こんなとこで本気で遊んでんじゃねェよ。



 煙草をくわえたままの唇が上下に動き、それにつられてゆらゆら煙が歪に揺れる。



 ――ほら、帰るぞ。



 つい先ほどまで桃色に触れていた掌は今度は俺の亜麻色に指を絡めて、娘にやるよりも些か乱暴に掻き混ぜた。
 それを見つめる娘の青に、橙色が差し入って来る。それはやがて紫色に変わり、そして藍色に塗り潰されるのだ。目の前の男と同じ色に。
 何で。何で。何で。
 それを言えるのは子供の特権で、大人は子供が大好きだ。無条件に、愛される。



 立ち上がり去って行く俺たちの背に、虹色の娘の視線が注がれている。
 ――お前たちは歪ネ。
 同じ台詞が聞こえたような、気のせいだったような。
 言いたいことを言えるのも子供の特権で、大人の愛に甘えていいのも子供の特権なのだと、子供たちは知っている。



           ***



 男が昔、まだその唇に有毒物質を挟んでいなかった頃。
 道場主の所用で午後の稽古がなくなる時は、男はいつもふらりと何処かへ姿を消した。
 それを気にも留めていなかった俺が、男がいつも何処で過ごしているのか見付けたのは、ただの偶然だった。
 姉上の体調が思わしくなくて買って出たお使いの帰り道。休憩がてら足を止めたお堂の裏手で、男はぼんやりとそこに咲く黄色い花を見ていた。
 男が花を好きだったなんてその時初めて知った。いや本当にそれは、好きだから眺めていたのかどうかは、結局今でも知らないのだけれど。
 ある日の道場の帰り道、不意にそれを思い出してしまった俺は、何となしにその花を摘みに行った。
 ただの気紛れだった。ただの気紛れで、男の誕生日でも大好きな人の誕生日でも姉上の誕生日でも勿論俺の誕生日でもなく、盆でも正月でもクリスマスでもないその日に、その花を摘んで男に贈った。
 男は一瞬驚いたような顔をした、と思う。あの頃の男は俺に怒り顔しか見せたことがなかったから、それ以外の表情を俺は知らなかった。
 礼を言って口元を緩めた男は(今にして思えばそれは男が見せた初めての笑顔だった)、大きな掌を俺の頭に乗せた。
 それは骨張っていて剣だこだらけで、あちこち擦り傷切り傷だらけのぼろぼろの手だったけれど、長い指先に流される俺の髪に、男の方が気持ち良さそうな顔をしたことを覚えている。
 その花はそれから暫く、道場で男が寝泊りしている部屋で、色気なく湯呑みに差されていた。男ばかりの貧乏道場に一輪挿しなんて洒落たものがあるわけがない。
 けれどある日、男は暴れる俺の腕を取って道場の庭先に引きずり出し、その花をそこに植えた。
 俺が摘んだ時より花の根は育っていたから(そもそも花を摘む時に茎から手折るのではなく根から抜くのは姉上を教えだ、その方が花が長持ちするから)、もう戻しても大丈夫だろうと呟く男のしゃがみ込んだ頭頂に、俺は何でと言った。
 いつだって子供は純粋だ。好きも嫌いも疑問も癇癪も我儘も、子供は全てをぶつける権利を持っている。



 ――地面に生えてるのが好きなんだ。



 男の答えは至極単純だった。
 手折って綺麗なものを自分のものにして愛でて、その命の灯火を削る代わりに盛大に美しく咲き誇らせるより、
 世界の外で長い時間、定められた美しさを薄く伸ばしてただそこに在り続けるだけのものを愛でること。
 男はそれを愛していた。
 けれど子供はいつだって純粋に暴君だ。愛も憎しみも欲望も、子供は全てをぶつける権利を持っている。



 花は秋の大嵐に萎れて死んだ。



           ***



 刀を振るうのは嫌いじゃない。人を斬るのは嫌いじゃない。人を殺すのは嫌いじゃない。
 刀を振るうのは護りたい人のためだけれど、人を斬り殺すのとそれは繋がらないことの方が多い。
 例えば今宵のこの戦場に、あの人は居ない。居ないあの人を今此処に居る俺が護れるわけがなくて、護る対象が居ないのに俺は刀を振るって人を殺す。
 それは嫌いじゃないからだ。どうせ散るなら盛大に、美しく咲き誇らせて愛でてやりたい。
 少しばかり頬に飛んでしまった返り血を手の甲で拭う俺の前に、男の大きな背中がある。
 それは孤高で孤独だ。
 男を鬼だと揶揄する者は多いが、俺はそれを半分外れで半分当たりだと思っている。
 男はどこまでも人間で、当たり前の優しさに満ちた人間で、けれどその世界はいつも外側にしか存在しない。



 ごほりと咳き込んで、喉の奥からぬるりと溢れて来たのは、
 大蛇でもなく、桃色髪の娘の言葉でもなく、昨夜飲み下した男の体液でもなかった。



 掌を握り込んで、背後から抱き付いて、腰に腕を回す。
 その拳に、男の慈しむような指先が触れた。
 男は子供が好きなわけではない、俺が好きなわけでもない、ただ己の幼少に哀切を、けれどほんの僅か与えられた温もりを呼び起こし心を温め、それをお裾分けしているだけだ。



 ――――俺は間違っていたのかもしれない。



 男はどこまでも土方十四郎で、それは真選組の土方十四郎で、それで充分だったのだ。
 俺の情人の土方十四郎なんて顔は、必要なかったのだ。



 ――――俺は、間違っていたのかもしれない。

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