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銀魂。万事屋ご一行様。
「…暑いアル」
「…夏だからな」
「…汗が止まらないアル」
「…暑いからな」
「…何でこんなに暑いアルカ」
「…夏だからな」
「…汗が、」
「…暑いからな」
「…このまま汗が止まらなかったらどうなるアルカ。干からびて骨と皮だけになってこのピチピチの肌も下のババアみたいに皺くちゃになって死ぬアルカ。銀ちゃん、私死ぬアルカ」
「……だぁぁぁぁぁぁぁっ、もう! うっせーよ!! ウゼーよ!! そんなに暑いなら公園行って水でも浴びて来なさい! そしたら下のババアみたいにはなんないから! 妖怪皺くちゃババアにはなんないから! お肌ピッチピチになるから!」
「酷いネ銀ちゃん! こんな猛暑の中また(※第四百五十七訓参照)私を外に放り出すアルカ?! 死ぬネ、今度こそ私本当に死ぬネ! 妖怪皺くちゃババアMARKⅡになって、」
「――――テメェらぁぁぁぁぁ!! さっきから全部聞こえてんだよ!! ダラダラしてる暇あるんなら外出て仕事探して来な!! そんでさっさと家賃払いやがれ!!」
***
こうして万事屋一行は、家賃稼いで来るまで戻って来んじゃないよ!というお登勢の怒号に追い出され、真夏の炎天の下を三人と一匹でとぼとぼと歩いている。仕事のアテなど、勿論、ない。
「…というか、居たのカヨ駄メガネ」
「酷いよ神楽ちゃん!」
「…あー、うっさい。お前ら黙れ。余計に暑くならァ」
一応前回(※第四百五十七訓参照)の反省を踏まえ、日傘は神楽に、銀時と新八は脳天に何も覆うものなく歩く。よって、二人のこめかみからは尋常じゃない汗が滴り落ちている。
真夏の陽射しが銀時の髪をきらきらと光らせていた。その様は見ようによっては美しいのだが、その下の顔から全身がこれでもかとだらけきっているため、共に歩く二人と一匹も、すれ違う通行人たちも、本人でさえも気付かない。だから、それがモテない原因なのだと突っ込んであげられる人も居ない。唯一気付いている、家からずっとストーカーを続けているくノ一は、そもそも銀時がモテないとは思っていないため、この場合役に立たない。陽炎が立ち昇るほどの暑さであっても何であっても、今日もかぶき町は平和だった。
とりあえず水分を、と三人と一匹(とストーカー)は公園へと向かっていた。公共施設は使えるだけ使え、がモットーだ。税金など産まれてこの方納めたこともないが、そんなことは知ったこっちゃない。
「暑いネ…」
「神楽ちゃん、もうすぐだから」
「銀さーん、暑いなら私の家で一緒に水風呂に入らない?! お背中も銀さんの銀さんも私が綺麗に流してあ・げ・」
轟音と共に背後の電柱がへし折れる音がしたが、三人と一匹はやっと目の前に現れた公園の入り口しか目に入らなかった。
炎天下の公園にはほとんど人が居なかった。木陰に設えられたベンチにちらほらとサラリーマンの姿が見えたが、誰もがみな暑さに参ったようにぐったりとしている。
そんな中、三人と一匹は遮るものの何もない、公園のど真ん中に鎮座している水道の前で固まっていた。銀色の飲み口がギラギラと太陽光を反射しており酷く目に眩しい。けれど、驚愕に目を見開く三人と一匹にはそんなものは大したダメージではないようだった。何故なら、それよりも遥かに上回るダメージを与えるものが、某ご隠居様の印籠のように三人と一匹の前に突き付けられていたのだから。
“九時~十八時まで使用不可。節水にご協力ください。”
「……何なのコレェ?! この国はどーなってんの、砂漠で今まさに行き倒れようとしている人が、やっと見付けたオアシスが蜃気楼でしたーって話より酷いよ?! オアシスは現実に存在するのに、貞操帯付けて『夜にならないとダメ…』ってそれ何て淑女?! そんなことは求めてないんだよ、飢えてる男にそんな恥じらいは鬱陶しいだけなんだよ、朝も昼も夜もいつでも●れてて●吹く●ッチが今まさに求められてんだよ!!」
「銀さんんんん!! 発言がR-18ですぅぅぅぅぅ!!」
「待つネ銀ちゃん、新八。そんな貞操帯なんて風穴開けてやればいい話ネ。女もそれを求めてるアル。荒々しく暴かれるのを想像して、きっと帯の向こうは●れ●れヨ」
「神楽ちゃんんんん!! 女の子がそんなこと言っちゃいけません!! って、何しようとしてるんだー!!」
神楽の日傘の先端に備わっている銃口が、今まさに水道を破壊しようと火を噴く寸前で新八が神楽を取り押さえる。離すネ!と暴れる神楽と必死で抑え込む新八を尻目に、銀時と定春は完全に伸びていた。砂漠でもジャングルでも無人島でもなく、天人の到来で一気に文明が進んだはずの江戸はかぶき町で、行き倒れが発生しそうになっていた。
「……海」
しかし、半分死体に片脚を突っ込みかけていた片方が、ぴくりと動いて呟いた。
え?と聞き返すこども二人に、ダメな大人は勢いよく跳ね起きて宣言する。いつもの死んだ魚の眼はどこへやら、その瞳は少年漫画の主人公のように煌めいていた。
「こうなりゃヤケだ、海行くぞテメェらぁ!!」
***
かくして万事屋一行は、海へ向かってひた走る。男二人はいつもの原付にニケツして、少女は白いもふもふのペットに跨って。ただ真っ直ぐ南へと、堂々と公道を突き進む。途中で、このクソ暑い中クソ暑苦しい黒い制服を着た税金泥棒たちとドンパチがあったが、それもまた青春の一ページ。例えいつかは黒歴史になろうとも、生きている今の一瞬一瞬が楽しいことが重要なのだと、きっとどこかで誰かが言っているはずなのだ、多分。
そうして、ちょうど太陽が真上に来る頃に、ざっくり分類すると軽犯罪者にカテゴリされる一行は目的地へと辿り着いていた。
高い空、眩しい太陽、輝く海、真白い砂浜。その光景は、大抵の人間のテンションを上げる。この一行もどうやらそちら側の人間(と犬)だったようだ。
「「「ひゃっほーーーーーい!!!」」」「アン!!」
荷物も服もその辺に放り出して、三人と一匹は駆け出していく。ざぶんと飛び込んだ海は冷た過ぎず温過ぎず、まさに朝から求めて続けていた心地良い水分だった。
しばらく、波に揺られるまま流されるまま、ぼぉっと空を見上げる。熱い陽射しがじりじりと照り付けるが、寄せる波が灼ける肌をじんわりと癒していく。(ちなみに、初期設定を捨てられない少女は、水着ではなくウエットスーツ着用である。きっちり帽子も被りその上からサンバイザーまで装着している念の入れようだ。安心、安心。)
それから、三人と一匹は海水浴を満喫した。
水泳競争から始まり、波打ち際でビーチバレー、ビーチボードを使って波乗りしてみたり、たまたま海の家でバイトしていたマダオを捕まえて焼きそばとかき氷を奢らせてみたり。突如現れた巨大クラゲを撃退してみたり。突如襲いかかって来た巨大ザメを丸焼きにしてみたり。
はっと気付けば夕陽が水平線に飲み込まれていくところで、それをきらきらとした眼で見つめた少女が、綺麗ネ、と言ってにっかり笑ったから、男二人と一匹も笑った。
美しい光景を、みんなで並んで見つめる。感じるのは感動、そして、少しの寂しさ。だってそれは、この楽しかった一日の終わりの合図だから。
しかし、そのどことなく流れるしんみりした空気を、ダメな大人の代表万事屋銀さんがニヤリと笑ってぶち壊した。
「お楽しみはまだまだこれからだろ?」
そう言って取り出したのは、いくつもの花火セット。空に広がる暗さに比例して顔を曇らせていたこどもたちが、ぱっとまた笑顔になった。
とりあえずシャワーを浴びて着替えて再集合した時には、とっぷりと暮れた夜空に浮かぶ丸い月がそれはまた綺麗で。月明かりの下、先ほどの巨大ザメの丸焼きの残りで晩ご飯を済まし。
いざ始まるは、昼間の続きの楽しい今日。
色取り取りの花火を手にした神楽がくるくる回る。くるくる回る光を追って定春がくるくる走り回る。それを眩しそうに見やる新八の手にも七色に色を変える花火。銀時は筒形を並べて一気に火を付ける。シャワーのように吹き出したそれに、神楽が嬉しそうに手を叩いた。
打ち上げもやった。落ちて来た小さなパラシュートを捕まえた神楽が少し指先を火傷した。
ねずみ花火もやった。銀時と神楽から足元に投げ付けられた新八が、奇妙なダンスを踊って尻餅を付いた。
線香花火勝負はお約束。「線香花火の銀さんと呼ばれていた俺様にかなうと思うか!」とのたまっていた銀時が一番最初に落とした。
そして三人は、砂浜に寝そべる定春を枕に星を見上げた。
さすがに流れ星が流れるなんてご都合的展開は起きなかったし、今は流星群も来ていない。それでも、新八は夏の大三角形を見付けて指を差し、神楽は勝手に星を結び付けて新しい星座を作り出し、銀時は宇宙に居る昔馴染みのことを少しばかり思い出したりもした。思い出した途端宇宙船が突っ込んで来そうで、すぐにやめたけれど。
いつの間にか定春は眠ってしまっていて、引き摺られるように神楽も目を閉じる。銀時も大欠伸をし、新八は、さすがにここで寝込むのはと起き上がろうとしたけれど、定春のもふもふの尻尾がまるで布団のように三人の身体を包むから、結局、遊び疲れた新八も目を閉じてしまった。
優しい波音は遠い日の子守唄のようで。降り注ぐ月明かりは遠い日の誰かの温もりに似ていて。
すっかり寝入ってしまった三人と一匹は、きっと懐かしい夢でも見ているのだろう、一様に穏やかな顔をしていた。
***
「……で」
結局朝まで眠ってしまった三人と一匹は、夜明けの道を、行きとは違い実に低いテンションで歩いていた。
「ガス欠ってどういうことですか銀さん! てゆーかここどこ?! 僕たち後どんだけ歩かなきゃなんないんですか?!」
「…あー、朝からうっさいよぱっつぁん。これもまた青春の一ページ。良かったじゃん絵日記に書くこと出来て」
「絵日記って何?! 僕そんなのつけてないんですけど?!」
夜明けの道を、原付を転がしながら歩くマダオ、いつ何時でも突っ込みのテンションを維持出来るメガネ、白いもふもふのペットの背に寝そべって空を見上げる少女。三人と一匹の影が、昇りつつある太陽の高さに比例して少しずつ濃くなっていく。合わせて高くなっていく気温。鳴き始める蝉の声。今日もまた暑くなりそうだった。
「しょーがないでしょー! この辺スタンドないし、あったとしてもまだ開いてないし、開いてたとしても銀さんお金ないからね! 昨日の花火で全部使い切っちゃったからね!」
「ガソリンの残りくらいちゃんと見とけやこのマダオ! …あーもー、姉上心配してるだろうなぁ…」
とぼとぼと歩く新八と、なるようになれで開き直っている銀時を横目に、いつになく神楽は静かだった。普段ならこんな時、新八以上に辛辣に銀時を責めるはずなのだが。それとも、神楽はそもそも定春に乗って来たのだから、帰ろうと思えば二人を置いて一人さっさと帰れるという余裕がそうさせているのか。
そんなの絶対許さんぞコノヤロー、とジト目で見る銀時の視線に気付いたのか、ふと神楽が二人に顔を向けた。
「銀ちゃん、新八。見るネ、とても綺麗ヨ」
その言葉に銀時と新八は立ち止まり、神楽が指差した方へと目をやった。
一行が今居るのは、海から続く坂道を上がったちょうど頂上辺りで、だから少し高い位置に居る。神楽が指差したのは、まさに今上って来たばかりの海の方だった。
眼下に広がる、少し遠くに見える海は、夜が明けたばかりの今はまだほんのり薄青かった。その水平線の少し上に昇る太陽もまだどこか柔らかい。続く空も淡い水色で、その中にまだ、ごくごく僅かな光を放つ星が幾つか見えた。
昨日の夕陽の鮮やかさとはまた真逆の、全てが入り混じったような、優しい色をした世界だった。そしてその中で存在感を増していく太陽が、世界の始まりを告げている。
全員しばし立ち止まり静かにその光景を見ていたが、不意に神楽が笑って言った。
「とっても楽しかったアル。また来年も、再来年も、そのまた次の年も、ずぅっと毎年、みんなでまた来ようネ」
その言葉に、その笑顔に、先ほどまで意気消沈していた新八もまた笑顔になった。晴れやかな笑顔で、頷き言った。
「今度は姉上も、みんなも誘ってまた来ましょう。…ずっと、一緒に」
ね、銀さん、と振られた銀時は、…まるで眩しいものでも見たかのように目を細めた。そうだな、と返した唇の端が、ほんの少し、上がる。二人に表情を悟られないように、頭の後ろを掻くフリをして腕を上げた。
銀時は知っている。いつかは、このこどもたちが巣立っていくことを。そう遠くはないいつか、自分がこのこどもたちの背中を見送る日が来ることを。
一日とは生きる者の一生に似ている。夜が明けて世界が始まり、陽は高い空へと昇っていく。そしていつかは沈むのだ。それが世界の摂理で、生きる者の摂理だ。
このこどもたちは今はまだ夜明けに過ぎない。これからどんどんと大きく強くなって、空へと昇っていくだろう。しかし昇るということは、地面から離れるということなのだ。
ずっと一緒には、居られない。
「…ほらお前ら、帰るぞー」
こどもたちに背を向けて、銀時は今度ははっきりと笑みを浮かべた。苦笑いのような、寂しげなそれのような。
背に射す暁光が温かいことを知れた幸福だけ、今は。
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