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* それはとても、晴れた日で *

かきたいときに、そのときかきたいことを無節操に。

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【銀魂二次】さよならわたしの大切なあなた【土方・沖田】
いやほんと、空知はずるいよ、っていう。
最後の最後(一応あれは「さらば真選組篇」だったわけだし、今の展開に彼らが絡んでくる可能性は限りなく低いだろうな、と。次にやつらに会えるのは本当の最終回かなというのがわたしの予想)にそんなそーちゃん見せないでほしい。←勿論いい意味です。
・・・と、先の感想でも書きましたが。それをそのまま書き散らしちゃって、もう何と言っていいのか分かりません。
あと、そーちゃんの「死ね土方」は(妄想で色んな意味が込められて)とっても汎用性のある台詞だと思います。






 思い返せば、無理が重なっていたのかもしれない。
 陽が落ち暗闇に染まった部屋の畳の上で、土方は一組の布団を目の前に胡坐をかきながら、僅か眉を顰めた。そして、首を振る。
 無理と言えば確実に今目の前で横になっている男はヘソを曲げる。しかし、そうとしか言いようがないだろうとも思う。
 始まりは将軍暗殺を狙う賊共の戦力を少しでも分散させるための、囮船での宇宙最強海賊師団長との一戦。
 囮としての信憑性を増すために、姫様やその他幕府の忠臣達を乗せた船だったにも関わらず、真選組から出したのはこの男一人だった。
 土方自身と大将は本物の将軍のお供に付き、他の真選組隊士達はその動向を悟られぬようにと江戸に残し。
 そうして欲しい、一人の方が身軽でいいと言ったのは男の方だったが、それでも後になって男と剣を交わした相手を聞いて、土方は己の判断を悔いた。
 確かに真選組隊内において、剣の腕でこの男の右に出る者は居ない。他の隊士を同行させたとしても相手がそれほどの者だったのなら、助けになるどころか足手まといになった可能性は否めない。しかし、例えば斉藤終とか、この男に勝るとも劣らない者だって居たのだ。なのに、隠密作戦であるということにばかり気をやり、男にそれほどの負担を強いるかもしれないことまで頭が回らなかった。いや、馬鹿でも腕だけは確かなのだからと、まさかこの男に戦闘においてそこまで手傷を負わせる者が居るとは思っていなかったという方が正しい。
 だから、あの忍の里までやって来たその姿を見て、頭の包帯に疑問を持ちそのことを知ったにも関わらず、変わらない飄々とした振る舞いに土方は後悔よりも安堵が勝ってしまった。それを、今にして恥じる。
 それでも常なら治りの経過を気にしていたものだが、あの後すぐに真選組は解体され、土方は一時隊士達と行動を別にしてしまった。聞けばこの男は定宿も持たず、ホームレスよろしく公園で寝泊まりしていたらしい。男は余り戦いで傷を負うことがないからか、傷を負っても手当の仕方がうまくない。そんな奴が短い間とは言えホームレスなんて清潔とは言い難い環境に身を置いていたとなれば、傷の治りは遅くなるどころか、更に悪化させていてもおかしくはなかったのだ。
 なのにこの男は、土方が腹を括るまで辛抱強く待ち続けた。あの冷たい雨はどれだけ男の傷に響いただろう。今あの時のように「死ね」と言われたら、言い返す言葉を土方は持たない。
 そして、その後の総力戦。当然のごとく、この男へかかった負荷は最大級だった。あんなにボロボロになった男の姿を、土方は今だかつて見たことがない。
 それが、近藤さんから与えられた自身の役目だから。そう男は言った。だからアンタは振り返るな、そうとも言った。
 あの戦いの中で土方は初めて“真選組で在る意味”を悟ったというのに、この男は最初から全てを飲み込んで、総てを覚悟していたのだ。真選組を立ち上げたあの頃から。まだ齢十と少しだったあの時から。
 敵わないと思う。今初めて、心底から、てめェにはもう敵わねェよ、と土方は思う。




 ――――――――総悟。




 眠る総悟の額に乗せた手拭いを取り上げ、枕元の盥に入れた冷たい水に十分に浸してまたその額に乗せてやると、総悟はゆるりとその目を開き、横目でちらりと土方を見やった。
 「…死ね土方」
 先ほど死ねと言われても言い返せないと思っていた土方だったが、さすがに目覚めて開口一番それではイラッとするのは止められない。しかしまぁ、寝込んでいる奴に拳骨を食らわすわけにもいかず、仕方なく銜えたままで火を灯していない煙草を奥歯でギリギリと噛み締めることで抑えてやった。そのザマを、総悟は相変わらず小憎たらしく鼻で笑う。
 腹減ってねェか、と土方が問えば首を横に振り、それでも何か腹に入れろ、と言えば舌を出して顔を背ける。そんなやり取りは総悟が子供の頃から、まだ武州に居た頃から変わらないというのに、それでももう土方はこの男を子ども扱いすることは出来ない。じゃあとりあえず水でも飲んどけ、とあっさり引いて枕元の盥の横に置いておいた水差しを差し出した土方に、総悟はお化けでも見たかのように目を剥いた(昔からお化けなんぞに驚く可愛げはなかったけれども)。
 出会った頃から、総悟が寝込んだ時の看病は土方の役目だった。それは土方が“後輩”だったからで、ただでさえ身体の弱い姉に病を移したくないからで、勿論それは近藤に対しても同じで、曰く、てめェなら何の気兼ねもいらない、寧ろ移って悪化して死ね、というわけなのだが、土方も鬼ではないので(後に“鬼の副長”なんて呼ばれることになるなんてこの時は思いもよらなかった)、看病はしっかりしてやった。それはもうしっかりときっちりと、普段の鬱憤を晴らすがごとく手厳しく。
 例えどんなに食欲がないと駄々をこねても無理矢理口を押し開いて粥を流し込んだし、子どもらしく苦い薬は嫌だと喚いても決して薄紙になんて包んでやりはしなかった。さすがの総悟も本当にそれには参ったらしく、それからは自分の体調に殊更気を使い出したのだが、けれど所詮はまだ免疫力の低い子ども。季節の変わり目ややけに冷える冬などには度々寝込み、そうして土方の大人気ない仕返しを悔しそうに受け続けた。
 一度なんかは、土方の看病を嫌がる余りに具合が悪いのを隠し続けてあわやというほどまで悪化させてしまい、心配しすぎた姉まで寝込ませてしまったことがあった。
 近藤もオロオロして、代わろうか、と言い出したのだが、総悟は頑として首を縦には振らなかった。そして気丈に、こんだけ酷いのならてめェに移せばてめェはもっと酷い目に遭うだろ、そん時はオレがちゃあんと看病してやるから覚悟しとけよ、と今と変わらない悪魔の笑みを浮かべてみせた。実際は、土方は総悟の看病をする時は予防のために自分も同じ薬を飲み続けていたため、総悟の風邪が移ることなど一度もなかったのだけれど。
 それは江戸に出て来て、真選組になってからも何故か続いていた。その頃には土方もいい加減つまらない仕返しをしようとは思えなかったが、総悟はといえば相も変わらず食欲ないから飯は食いたくねェ、粉薬は飲み辛いから錠剤にしてくだせェ、なんて言うもんだから、結局子どもの頃と変わらず土方は口をこじ開けて粥やら薬やらを突っ込んでいた。
 それが当たり前だったのだから、例えお化け程度では動じない男でも驚くのは無理もない。
 総悟はゆっくりと身を起こし、恐る恐る差し出された水差しを受け取りながら、高い熱のせいできちんと焦点の合わない目をそれでも凝らして土方を上から下まで眺め回した。
 「…アンタ、何か悪いモンでも食ったんですか」
 あ、冷蔵庫手前のマヨ、下剤仕込んどいたんですけど、分量間違えたかな。そう呟きつつ水を飲む総悟に、土方は溜め息を零さざるを得ない。四番隊の奴らに謝っとけ、アイツら昨日一日厠から出て来れなかったぞ、と。
 それを聞いて総悟はニヤリと笑う。分量はあれで間違ってなかったみたいですねェ、そう言いながら、自分から枕元の盆に手を伸ばし、そこに置かれていた薬を摘んで口の中に放り込む。
 土方が仕返しする気をなくしてから、薬は錠剤が多くなった。


          ***


 総悟が倒れたのは、江戸に戻って、屯所に一歩足を踏み入れたその瞬間だった。
 あの総力戦の後、皆それぞれに身体に抱えた傷を癒す間もなく江戸を出た。それは土方も同じだったし、近藤も、他の隊士達も同じだった。ただ、総悟が抱えた傷は誰より多く、誰より重かったのだ。
 そんな中、身を隠しながら、時には追手から逃げ回りながらの旅路はどれだけその身を苛んだのだろう。土方でさえキツイ時があったというのに。
 今度はちゃんと気にかけていた、傍に居れたから。それでも総悟は変わらず飄々としていて、あの島で総悟のボロボロの姿を見てしまった一人である山崎がいつものごとく土方に代わってあれやこれやと世話を焼いていたから、またも土方は安心してしまっていた。
 そうして気付けば宇宙で色んな因縁や何やかやが決着していて、真選組は再び江戸にその居場所を与えられることとなり。
 意気揚々と帰京し、さあこれからあの日の夢の続きを始めるのだと、続く道先をこれからも皆と共に進んで行こうと、嬉し泣きすらしている隊士を引き連れ、全員が笑顔で門をくぐった、その瞬間。
 「……沖田隊長?!」
 山崎の悲鳴に近い声が進む全員の歩みをぴたりと止めた。
 慌てて土方が声を上げた山崎の方を見やれば、つい先ほどまで、本当につい一瞬前まで、近藤の横を歩きながら笑っていたはずの総悟が、同じように驚いた顔で振り向いている近藤の半歩後ろのところで、突っ伏すように倒れていて。
 抱き起こして見ればその顔は青白さを通り越して土気色に近く、その顔色を見た瞬間山崎は飛ぶように医者を呼びに走った。
 動揺する隊士達を土方が収める間に近藤が総悟を部屋に運び、そうこうしている内に山崎が拉致するがごとく引きずって来た医者は総悟を一目見て、すぐさま大病院へ搬送した。そこで初めて土方は総悟の傷の深さを知り、慄いたのだった。
 曰く、中がぐちゃぐちゃだと。こんな身体で今まで普通に生活していたのなら奇跡だと。
 即手術となったその扉の前で山崎が泣きながら土下座して詫びていたが、山崎は別に医者ではなく、特別医学に心得がある者でもない。表面の目に見える傷の手当にはお節介を焼いたが、内側のことなんて本人が申告しなければ素人にはどうしようもない。気付けなかったことが罪ならば、それは近くに居て多少なりとも気にしていたはずの土方も同罪なのだ。
 手術後も三日は目を覚まさなかった総悟だが、目を覚ました瞬間屯所に帰りたいと言い張った。医者が何度無理だと言っても、近藤が何度宥めても決して譲らず、終いには出してくれねェなら勝手に出ると、間違いなく本気の脅しまでかけてきたものだから、近藤と土方が病院に頭を下げて無理矢理退院をもぎ取り、今に至っている。
 勿論屯所に戻ったところで絶対安静なのは変わりなく、金を積んで手配した病院からの往診以外は日がな一日離れの部屋でずっと横になっているだけなので、一度土方は何で無理を通したのだと聞いてみた。病院の方が色んな世話が行き届いていて快適だろう、と。
 返ってきた言葉は、そしたらアンタの邪魔出来ねェだろう、と、至極当たり前かのように、寧ろそんなことも分かんねェのかと馬鹿にしたような。
 倒れてからというもの殊更子どもじみた言動を繰り返す総悟だったが、それを素直に信じてやれるほど土方は優しくなく、しかし結局その真意は推察するしかないまま、今日も今日とて土方は総悟の世話をする。
 …痩せてしまった身体は、互いに見ない振りをして。


          ***


 横になり目を閉じていた総悟が、ふと思い出したかのように、眠りと目覚めの間のぼんやりした声音で口を開いた。
 「そういやァ土方さん。……姉上に、何か言付けはありますか」
 驚くことではない。姉を、ミツバを亡くしてから、総悟はごくごくたまに寝込めば、必ず土方にそう尋ねた。
 聞けば、総悟が体調を崩した時には必ずミツバが夢枕に立ってくれるのだという。もしもそれが本当ならば、どれだけ彼女は弟離れが出来ていないんだと思うし、総悟の願望が見せる夢ならば、僅かに胸が痛まないでもない。どちらにしろ、今更己が、しかも総悟伝手に何を彼女に言えばいいというのか。
 しかし、何もないと言えば総悟が本気で不機嫌になるので、土方は常に当たり障りなく、「達者でやれ」と、そう言ってきた。けれど、今回は。もしも本当に彼女が今現に降りて来ていて、この現状を見ていたのならば。
 「――――お前の大事な弟を護れなくてすまなかった。…そう、言っとけ」
 総悟の寝ぼけ眼がカッと見開いて土方を射抜いた。その瞳に燃えているのは、憤怒か、それとも糾弾か。
 しかし土方がその視線を真正面から受け止め、そして静かに見返せば、やがて視線から熱は失せ、総悟は再びゆるく瞼を落とした。
 「言ったはずでさァ、土方さん」
 「……」
 「アンタは振り返らずに行けって」
 「……」
 「例えどんだけの隊士を踏み越えても、…俺を踏み越えても、それが“副長(アンタ)”の役目だ」
 「……」
 「だけど、」
 続けて何かを言いかけ、しかし総悟はそこで少し言葉を切った。数瞬の迷いを、いつからか被り始めたその鉄面皮から土方が読み取るのと、観念した総悟が舌打ちを漏らしたのはほぼ同時。総悟はそのままゴロリと寝返りを打って土方に背を向け、もそりと肩まで布団を引き上げる。
 布団にこもってくぐもり、ずっと下がらない熱のせいで大層掠れた声だったが、それでも続けられた総悟の言葉は、しっかりと土方の耳に届いた。
 「俺達はただ近藤さんに命を預けるだけだ。だけどアンタは、その近藤さんの命を背負って、だから結局俺達の命まで背負ってる。俺達みたいに、何も考えねェで馬鹿みたいに突っ走れねェ。いちいち迷って立ち止まっちまうのも、……“土方さん(アンタ)”の役目なんでしょ」
 「、」
 「だけど、それでも、アンタはしゃんとしてなせェよ、…何があっても。次にあんな醜態晒したら、今度という今度こそ、副長の座ァ俺が頂きますよ」
 「――――」
 だったらさっさと獲りに来い、さっさと起き上がって、いつものようにバズーカ抱えて、市中のことも後始末のことも何も考えずに、本気で俺を殺りに来い――――喉元どころか舌先まで震わせたその言葉を、それでも土方はぐいと飲み込んだ。総悟が背を向けているのをいいことに、ぐっと目を閉じる。硬く硬く、何一つとして漏らさぬように、目も口もきつく閉ざす。
 いつかどこかで聞いたような言葉だった。あの時も、“次は俺が”と言っていたはずなのに、どうしてまた“次”を設けるのだ。どうして今、獲りに来ない。胸の内を、口内を暴れ回る言葉を抑える代わりに土方が押し出した声は、総悟と変わらぬほど、掠れていた。
 「……分かったから、もう、…休め」
 その土方の言葉に、総悟は背を向けたまま短く息を吸い、そして薄く、ゆっくりと吐き出した。吐き出す息に呆れたような苦笑が混じる。
 そうして、やれやれとでも言いたげに、総悟は首だけ振り向かせて、床から見上げられているはずなのにまるで頭上から見下ろしているような視線で、見事に土方を嘲笑った。
 「相変わらず、アンタはガキの寝かし付けすらヘタクソなんですねェ」
 てめェはもうガキじゃねェよ、という土方の呟きと、襖の向こうからそっと土方を呼ぶ山崎の声が重なった。


          ***


 総悟の部屋から出て、やっと土方は銜えたままだった煙草に火を付けた。吐き出す一服に紛らせて大きく溜め息を一つ。そう言えば、こうやって漏れてしまう溜め息を隠すために煙草を吸い始めたのがきっかけだったのかもしれないと土方がぼんやり縁側の向こうを眺める傍で、山崎が少し顔を曇らせたまま用意が整ったことを告げる。
 真選組を江戸から追いやった喜々公政権は、宇宙のドンパチに巻き込まれる形で呆気なく倒れた。その事態を招いたのは、過去の攘夷戦争において攘夷四天王と呼ばれた、攘夷志士達からしてみればいわば伝説の男達なのだが、地球に残っていた志士達はそれを良しとしなかったらしい。今夜、全勢力を結集して江戸に突撃して来る。
 当然、真選組は江戸を護るために、それを迎え撃つ。山崎の告げた用意とは、出撃の準備が整ったということだ。
 けれど、彼らの言い分もまた分からないでもないと、土方は思う。自分達の与り知らぬところで全てが終わってしまった。それでは今までの生き方やそのために犠牲にしてきた全てのぶつけどころがないのだろう。それをぶつけるために、今夜戦を起こそうというのだろう。
 悔しいと思うのは土方も同じだ。奴らとは敵同士だったはずなのに、気付けばいつも助けられていた。ならば今度は自分達も奴らの助けになりたかったのに。
 しかし、全ては済んだことだった。
 山崎の報告に返事をする代わりに、土方は吸いかけの煙草を捩じ消して足を踏み出した。この歩みを止めるわけにはいかない、真選組は江戸を護るために在り、自分達はその道を目指して突き進むと誓ったのだ、……例え仲間が倒れても、振り返ることなく。
 それが“副長(おのれ)”の役目なのだから。




 けれど。“土方(おれ)”は――――――――




 進みかけた歩みを止めた土方を、山崎は訝しげに見てきた。しかし土方はその視線を手を振って遮り、顎で先に行っとけと追い払う。
 誰も居なくなった廊下で、懐かしい、結局離れていた時間はほんの僅かほどだったのにとても懐かしく感じる屯所の廊下で、土方は少しだけ立ち止まる。前だけを見据える眼を、今だけは少し伏せる。
 そうして土方は、音にはせず、唇だけで小さな別れを囁いた。決して振り返ることはしない、けれど背中に、ずっと大切で、これからも変わらず大切な存在を感じながら。
 さようなら、小さなお前。
 さようなら、手を焼かされたお前。
 さようなら、弟のように思っていたお前。
 さようなら、クソガキ。
 「…暑くても、布団はちゃんと被っとけよ」
 それは、土方の最後の世話焼き。
 今度ははっきりと音にしたそれに、背後の襖の向こうから人の動く気配だけが応えた。ついでに舌打ちも。
 この間の総力戦が真選組が真選組で在るための戦だったなら、今夜の総力戦は攘夷志士達が攘夷志士で在るための戦だ。あの日の自分達の形振り構わない暴れっぷりが、今夜はそっくりそのまま返される。
 また誰かが倒れるかもしれない。それはもしかしたら土方自身かもしれない。
 けれど、それが近藤を護るための犠牲であり、江戸を護るための犠牲ならば構わない。
 後ろの、最近穏やかな眠りが増えて少しずつ快方に向かっている、あの男が戻ってきた時に真選組が真選組として在り続けていられればそれでいい。
 真選組を護るのが、“副長/土方(じぶん)”の役目なのだから。


 行ってきます、の代わりに土方は新しい煙草に火を灯し、再び足を踏み出した。今度はもう立ち止まることはなく。
 行ってらっしゃい、の代わりに総悟は、冷たい手拭いで火照った額と瞼をを覆いながら、死ね土方、と呟いた。

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