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* それはとても、晴れた日で *

かきたいときに、そのときかきたいことを無節操に。

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【銀魂二次】春夏秋冬/春:陽だまりのこども【土方・沖田】
銀魂。土方さんと沖田さん。


…こういう感じで、四季になぞらえたこどもシリーズを考えていたんです。いた、んです。
しょっぱなは結局土方さんと沖田さんのはなしになっちゃったけど、これから万事屋とか攘夷とか書こうとしてたからね。
けどもうこれ、家帰ったら速攻DVD本編再生だからね。続きなんて暫く出来る気がしない。


え…今?これをどこから書いてるか?…それは聞いちゃいけないお・や・く・そ・く♡
後2時間でどこまで書けるかなぁ~っとw








 初めてそのこどもを目にした時、その眩さに目を細めることしか出来なかった。






           ***



 「ひ~じ~か~たァ~~」
 遠くから、軽い足音と甲高い声音に見合わない怨嗟のこもった声が聞こえて来て、土方は顔を洗っていた井戸からさっと顔を上げた。
 これは足音に見合った小さな身体が、向こうから竹刀を手に駆け寄って来る。しかしその姿は、土方の眼前五メートルに来た辺りでふっと消えた。
 上か、と思い土方が視線を空に向ければ、昇ったばかりの太陽の光を真っ直ぐに受けてしまい、その眩しさに思わず土方は目を細めてしまう。直後、視界を庇うために咄嗟に上げていた腕に鈍い痛みが走った。
 「…こんのッ…」
 クソガキ、と土方が言うより早く、華麗に着地した小さな身体はそのまま土方に足払いを繰り出し、眩んだ目と痛む腕に気を取られていた土方は呆気なく仰向けに転がされ、そのクソガキに馬乗りを許してしまう。
 やべェ、と土方が思った時にはもう遅く、胸の上に跨ったこどもの手に握られていた竹刀の先端は真っ直ぐ土方の額に狙いを定めていて、そしてそれはすぐに振り下ろされた。
 「……」
 「……」
 土方の額を穿つまで後僅か一ミリというところで竹刀の切っ先は止まり、ぜえぜえという互いの荒い息遣いだけが刹那、空間に木霊する。
 けれどその間は、すぐさまこどもの高い声で破られた。
 「男に二言はねェよな、土方」
 「……分かっ、…りましたよ、…“沖田センパイ”」



           ***



 土方が近藤の道場の居候となって早二週間。
 喧嘩師としてそこそこ名の知られた土方の登場に、近藤以外の他の門下生たちは最初遠巻きに眺めているだけだった。だが、近藤が良く面倒を見、それに応えるかのように黙々と稽古や道場の仕事をこなす土方に、彼らは次第に心を開いていった。近隣に名を知らしめるだけあって、完全に我流とは言え、剣の腕もそこそこだった。それに彼らは近藤の人柄を何より理解し愛していたから、その近藤が仲間だと言い、芯から心を開いているのならば、その人間性を疑う者など結局は居なかったのだ。
 ――ただ一人を除いて。
 そのただ一人こそが、“沖田センパイ”こと、沖田総悟だった。
 まだ十にもなっていない、はっきり言ってしまえばまだこどもの彼は、何が気に食わないのか最初から土方に突っかかって来た。
 始めは土方も、まだこどもだからと相手にしていなかった。けれどもたった一日で、その認識を改めざるを得なくなる。
 沖田総悟は、強かったのだ。こどもの小さな身体と細腕で、それでも竹刀を握らせれば大の大人一人をいともたやすく打ち倒してしまうほどに。
 そしてその強さに少しの遠慮も加減もなく全身で土方にぶつかって来るものだから(それがこども特有の無邪気さなのだとしたらこれほど厄介なものもないと思う)、土方としても本気で受けざるを得なかった。
 そうして、近藤に拾われて喧嘩師としては足を洗ったはずだった土方は、結局本気の喧嘩を繰り返す日々を送り続けることとなったのだった。ただのこども相手に。
 ついに昨晩、稽古以外で毎日付く痣や打撲に辟易して(正確に言えば、傷が付くぐらいは仕方がないと思っていた。それほどに激しい攻防なのだから。ただそれを放置していると近藤が口煩く、いい加減手当てをするのが面倒になったのだ)、一体お前は俺にどうして欲しいんだ、と問うた。
 すると目の前のこどもは、一瞬、ぽかんとその大きな眼を見開いた。口も同様だった。そのさまはひどく、…普段からは想像も付かないほどに、幼い、こどもの顔で。
 初めてこのこどもに出会った時と、同じように。



           ***



 「…近藤さん、どうしたんですか、その怪我」
 それは、土方が近藤の道場で夜を明かした初めての朝だった。
 昨日の喧嘩で付いた傷を、助けに入った近藤も同じほど傷を負ったくせに(そしてその縁で土方は今ここに居る)、まず先にと縁側で手当てし直されているその時、ふと人の気配を感じて土方が目を上げるのと同時に、その声は降って来た。…いや、視線を上げた先から真っ直ぐ届いたと言った方が正しいか。
 そこに、そのこどもは居た。
 春の朝、これから気温もゆっくり上がっていくのだろうと感じさせる今はまだ少し冷たい空気の中、ほの暖かく柔らかい陽射しを一身に受けて、色素の薄い髪と瞳をその陽だまりに瞬かせるあどけないこどもが。
 「おぉ、総悟か。今日も早いなー」
 顔を上げた近藤が朗らかに笑いかければ、そのこどもも同じように笑い、すたすたと縁側に座する近藤の傍に歩み寄り、近藤の大きな手が小さな頭をぐりぐりと撫で回すのを心底心地良さそうに受ける。
 愛されて、いるのだ。土方はその光景に、ただただ目を細めることしか出来なかった。それは決して笑顔ではない、ただただ、そのこどもが眩し過ぎたのだ。
 ふと、そのこどもの大きな眼がちらりと土方の方へ動き、しかしそれはすぐに近藤の方を向いて、再度同じ台詞を繰り返した。
 「それで、どうしたんですか、それ」
 「ん、…あぁ、昨日、ちょっと絡まれてなぁ」
 まぁ見た目ほど大したことねェよ、と切れた口端も気にせず大口を開いてがははと笑うものだから、すぐにイテテ、と近藤は背を丸め、そのさまを見やったこどもはまた土方の方へ視線を寄越した。今度ははっきりと、訝しげさを隠しもせずに。
 きっと判断しかねているのだ。目の前の見知らぬ男は、絡まれているところを近藤に“助けられた”者なのか、はたまた、“絡んだ”者なのか。たった一晩語り合っただけでも、土方は近藤の懐の深さを十二分に理解出来ていた。であるならば、旧知なのだろうこのこどもは、きっともっと彼の性質を良く理解しているのだ。“助けた”者にしろ“絡んだ”者にしろ、そのどちらがこの場に居てもおかしくない…、そういうことなのだろう。
 だから土方は、苦笑うしかなかった。自分はそのどちらでもあったのだから。
 多勢に無勢の破落戸どもとの喧嘩を近藤に助けられたのは本当。けれど、そもそもその破落戸どもに喧嘩を吹っかけたのは土方自身で、直接絡んだわけではないが、結果巻き込むことになったその元凶はやっぱり自分だと思うから。
 土方の苦笑を、こどもはどう受け取ったのか。丸くて大きくて、春の陽射しを惜しげもなく取り込んできらきらとしていた瞳が、ほんの少しだけ窄まった。
 しかしそこで、身を起こした近藤の変わらぬ明るい声が割って入った。
 「あぁ、トシか?」
 こどもの眼が再び近藤の方を向く。つられるように土方も視線を向ければ、おー痛ェと切れた口元を親指で拭いながらも近藤は、こどもの眼を真っ直ぐ覗き込んでにっかりと笑って言った。
 「トシ。土方、十四郎。今日から俺たちの仲間だ」
 その時の空気の変化に、近藤は気付いたのだろうか。未だに聞けてはいないが、しかし確かに土方は感じた。小さなその背中に、孤独が風穴を開けて行ったのを。



           ***



 愛されているこどもだと思っていた。いや事実、そのこどもは確かに愛されていた。
 道場のみなに、近藤に、…ただ一人の姉に。
 けれどそのこどもは、良くも悪くも人の心の機微に敏かった。
 大好きで大好きで大切な姉のことを、村の中では“年頃なのに親に先立たれた挙句幼い弟を残された可哀相な人”と言われていることを知っていた。
 大好きで大好きで大切な姉なのに、姉にとっては自分は重荷なのかと悩む余りに逆に過度に姉に甘えてしまって、それを許す姉に対する申し訳なさと自分に対する自己嫌悪を幼いながらに抱えていた。
 姉の膝元以外の居場所を見付けたと思ったら、ある日新参者がやって来て、その居場所の主は新参者に対しても心を明け渡してしまった。…それは違うのだと、土方が言ったところで余計拗れるだけだろうから言いはしなかったしこれからも言うことはないだろうが、あの人は特殊なのだ。あの人の心の源泉は無限なのだ。
 あの人の愛情が百あったとして、それが土方が来るまで丸々全部こどもに注がれていたとしよう(本当はそんなことはなく、あの人は正しく平等に道場のみなにも愛情を注いでいたが)。こどもは、土方が現れたことによって今まで百注がれていた愛情が五十に減ってしまったと勘違いした。
 けれどそんなことはない、土方が現れたことによってあの人の愛情は二百に増え、これまでと変わらず百の愛情はこどもに注がれていたのだ。…いや、こどもはそんなこと分かっていたのだろう。けれど、今まで丸々全部だったものが、分母が増えて二分の一になった。それはやはり、こどもにとっては減ったと同義だったのかもしれない。
 そして、姉が。大好きで大好きで大切な姉までもが、その分母を増やしてしまって。
 けれど。でも。



           ***



 一体お前は俺にどうして欲しいんだ、と問うた土方に、こどもは一瞬目と口を真ん丸に開いたが、次の瞬間には口を尖らせ、不貞腐れたように言った。
 「お前の方が後輩なんだから、先輩には敬語使えよ」
 「ふざけんな。お前の方が年下だろうが」
 「歳なんてカンケーねェや! それに、俺のがお前より強いんだから、お前は俺より下なの!」
 「あァ? それこそふざけんじゃねェよ。まだ稽古でも喧嘩でも、お前に負けてはいねェだろうが!」
 「はッ。手ェ抜いてやってるのにも気付かねェなんざ、お前おめでたいヤツだな!」
 「んっだとコラ。じゃあいいから本気出して来いよ。こっちだってお前がガキだと思って手ェ抜いてやってたけど、もーやめた。どーなってもしらねェからな!」
 上等だ、今からやるか、と両者立ち上がったところで、もういい加減にしなさい!と奥から近藤の声が飛んで、二人は渋々その場に腰を下ろす。そして土方は黙々と手当ての続きを、…こどもの手当ての続きを、始める。
 こどもは土方にやや乱暴に腕を取られたまま、面白くなさそうに縁側から足を投げ出してぶらぶらさせ、決して土方の方に顔を向けまいと、夜空に浮かぶ月を睨むように見上げていた。
 「…わぁーったよ。俺が参ったって言ったら、お前の勝ち。敬語だろうが何だろうが、使ってやるよ」
 手当ての済んだ腕を放り投げながら土方がそう言って立ち上がると、こどもはばっと土方の方を振り向いた。その眼は夜の猫のように瞳孔が拡がり、月の光を受けてぎらぎらと輝いていた。
 「男に二言はねェな、土方」
 「あァ」
 そのままこどもに背を向けて歩みを進めながら、土方は奥に居る近藤に終わったよ、と声をかける。すると近藤がにっこり笑顔で顔を出し、じゃあ総悟送ってくぞ、と言えば、こどもは先程までの憎々しさはどこへやら、歳相応に顔を綻ばせて近藤へと駆け寄る。今日はあのヤローに足をやられちまって痛いんです、だから肩車してください、と近藤に纏わり付くこどもに、さっきまで縁側で足ぶらぶらさせてたのはどこのどいつだ、と言うか今走ってたじゃねェか、と土方が呆れたようにちらりと視線を投げれば、こどもの方もちらりと土方の方を見やっていて。
 ぎらりとした視線が突き刺さる。
 何がそんなに気に食わないのか、この時の土方には皆目見当が付かなかった。けれど自分が人に好かれる人間だとも思わないから、それは余り気にはしていなかった。
 ただ思ったのだ、それが嫌悪や憎悪と言う負の感情であれ、全身全力でぶつかって来たのはこのこどもが初めてだ、と。






 この晩のやり取りの続きは、冒頭の通り。
 めでたくこどもは土方の“先輩”の座に収まりやがるのである。






           ***



 愛されているのに、自分も大好きなのに、けれど感じてしまう後ろめたさと遠慮。けれど離れられてしまうと辛い恐怖と焦り。
 その気持ちは、土方も知っていた。決してこどもには言わなかったけれど。
 言わなかったけれど、少しばかり思ったりもした、俺たちは似ているのかもしれない、と。そんなこと言ったら八つ裂きにされたのだろうけれど。
 こどもは、近藤と姉の前だけではいつも従順で素直な“いいこ”だった。時に我儘で姉を困らせることはあれど、こどもなりに努めて全力で“いいこ”であろうとしていた。
 けれど一目土方が視界に入れば、その“化けの皮”を簡単にかなぐり捨て、全身でぶつかって来る。そう、それは正しく“化けの皮”だった。
 このこどもは本当は、気難しくて癇癪持ちで我慢が利かなくて本当に我儘な、ただの“クソガキ”だった。
 そして、そんなこどもと五つ以上も歳が離れていて体格も全く違うくせに、全力で向かってくるこどもに全力で受けて立っていた土方もまた、ただの“こども”だった。
 大人しくただ笑って人の言うことを素直に聞くような“いいこ”ではなかった二人は、互いに向かう時だけは遠慮も呵責も何もなく、ただ己のままでぶつかっていられた。
 互いに捻くれ、片や結局喧嘩が大好きなまま、片や超ド級のドSへと成長を遂げ(これに関してだけは土方は多少後悔を覚えないでもない)、“こども”と呼べる時代はとうに過ぎ、互いそれなりに社会的な立場を持ち、互いにとって大切なものを護らんと闘う道を選んだけれど。
 それでも、土方とこどもの全力の関係は変わらないまま。
 ――こどもの持つ陽だまりの輪の中に、並び立ったまま。



           ***



 「死ね土方ァ~」
 今日も今日とてそのこどもは、その強さに少しの遠慮も加減もなく全身で土方にぶつかって来る。あの頃よりも段違いに増した強さそのままに、手にした獲物も竹刀から真剣に変えて。
 すっかり慣れてしまったその襲撃に、けれど隠せないこめかみを伝う冷や汗に、土方はいつものように怒鳴ろうと口を大きく開け、…けれどその形を、次の瞬間ニヤリと嫌な笑みに変えた。
 「いい加減にしてくださいよ、…“沖田センパイ”」
 こどもの変わらない大きな眼がぽかんと見開かれた。口も同様だ。それはそのままあの晩の記憶に繋がって、そしてあの朝の記憶に繋がって、今現在、障子の開け放たれた副長室に縁側より差し入る春の陽射しが目の前のこどもを包み込むさまに、土方は目を細める。
 「…何でィ、どうしたんですかィ土方さん。気持ち悪ィや」
 こどもは薄気味悪そうに刀を引き、すっかり気が削がれたとどっかり畳に座り込んだ。
 土方は喉の奥でくつくつと笑いながら懐から引き抜いた煙草に火を付けつつ、こどもに背を向けて襲撃前まで向かっていた文机に向き直る。そのままで、問う。
 「総悟お前、分数の足し算出来るか」
 はァ?と言う訝しげな声を背に受けながら、構わず土方は問いを続ける。
 「二分の一足す二分の一足す一は?」
 背後からの返答はない。土方は暫くそのまま書き物を続けたが、煙草を灰皿に突っ込む時にもしやと振り向いたら、もうそこにこどもの姿はなかった。
 「マジでか…」
 ずっしりと肩に圧し掛かる疲れに、土方はまた新しい煙草に火を付ける。吐き出した煙が風に流され、つと、土方は視線を外に向けた。
 呑気な春の昼下がりに座り込んで(まあ目の前に積み重なる書類には頭が痛いが)、開け放たれたままの縁側から吹き込むうららかなそよ風に紫煙をなびかせるなんていう、至って平和なこの光景に身を置いていると時々勘違いしそうになるが、数刻後には刀を振り回す戦場に居て、もしかしたら命を落としているかもしれない世界に自分たちは居る。
 けれど、と土方は思うのだ。
 そこが例え血の雨降る戦場であろうと、ひょっとしたら案外このまま平和に時は過ぎてって、皺くちゃのじいさんになって畳の上、今と同じように縁側の向こうの庭先を眺めながら迎える最期であろうと、――きっとそこには、お前を殺すのは俺だと公言して憚らないあのこどもが居るのだろう。
 例え闇夜の戦場だろうと、白髪交じりの爺さんだろうと。
 あの陽だまりの中で、きっと自分は眠るのだ。



 「……ほんとに気持ち悪ィな」
 ぼそりと独りごち、大きく伸びをして、土方はまた、目の前の書類に向かった。









 今となってはもう聞くだけ無駄でしかない、どうして欲しいんだ、という問いに。
 こどもは、死ね土方、とは答えなかったのだから。

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